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第22話 五月雨に惑う(8)
駅に向かう道すがら、さっき見かけた女子たちの様子を、ヤスたちにぼやいてしまう。
「本当に、女子って怖いよね」
過去にも、押しの強い女性や、脅迫じみたことを言ってきた女性もいた。つい、そんなことを思い出して、さっきの女子たちの様子も頭に浮かんでくると、つくづく、思ってしまう。
「茜はそんなに怖くないぞ」
「……ヤスくん、それ、あんまり嬉しくない」
「ヤス、頭使え」
うむ。『そんなに』じゃなく『全然』のほうがよかったと思う。俺も佐合さんも、呆れたようにヤスに目を向けるけど、肝心のヤスの方は、きょとんとしながら何が間違いだったのか、理解できていない。まぁ、そういう、ちょっととぼけたところが、佐合さんも好きなんだろうけど。
彼女たちのドタバタに巻き込まれている間に、雨足は弱まったものの、足元はすっかりずぶ濡れになっている。小さな傘に二人はひっついて歩いている様子は、なんとも、可愛く見える。ちょっと、羨ましいって思ってしまったのは、内緒だ。
「でも、その土屋さん? だっけ? なんか危ない感じするね」
「まぁ、元々、ヤバそうな感じはあったけどな」
雨音に負けじと、二人は少しばかり声を張り上げて、話しかけてくる。こんな話を周囲に聞かれたら、土屋さんもかわいそうなことになりそうだ。しかし、二人の言葉通り、俺の中でも若干引くものがあるのも事実。
「とりあえず、要くんからは接触しない方がいいよ」
「うん。そのつもり。まぁ、そのうち飽きるだろ」
つい、顔をしかめて返事をするが、ヤスの言葉で、もっと眉間に皺が寄る。
「そうか?あの手のは、しつこそうだけどな」
「ヤスくんっ」
「いてっ」
手にしていた折り畳みの傘の柄を、ヤスの頭にぶつける佐合さん。ヤスはヤスで、舌を出して、とぼけてみせる。まったく、二人のやり取りは見てて飽きない。ついつい、苦笑いが浮かんでしまう。
「まぁ、さすがに男の要が襲われることはないだろうけどさ、あんまり関わりもたないにこしたことはないぞ。鴻上先輩が心配するだろうしな」
「そうそう。要くんは、鴻上先輩みたいなことはないと思うけどね」
ふんっ、と鼻息荒く言い放つ佐合さん。いまだに、春休みのことに、少しばかり思うところがあるようだ。ついつい、柊翔のことをキツク言うことがある。それだけ心配してくれてるんだろうけど。時々、佐合さんは、俺の姉貴か、と思うことがある。母親か、と言ったら、殴られそうだ。
「大丈夫だよ。今日はたまたま、二年の教室を覗いたからだし。そもそも、そんなに接点ないだろ」
「まぁな……でも、あいつらの方が覗きに来る可能性高いだろうが」
「そうよ。今日も昼休みに来たって言ったじゃない」
「あぁ……そうだっけか……」
気を抜くな、とか、本当に気を付けてね、と二人に散々言われながら、俺は、どうしたものか、と、困惑しながら駅に向かって歩き続けた。
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