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第24話 五月雨に惑う(10)
今までも何度か面談はあった。だけど、そのたびに俺だけが先生と話をした。父親には一度も話をしたこともなかったし、来たこともない。そもそも、まともに連絡すら来ないのだ。俺から折れる筋合いじゃない。
今までは、担任が家の事情を知ってたこともあって、免除してくれてたが、さすがに三年になって進路のことが関わってくると、そういう訳にもいかない。担任から、今回は来てもらうように、と言われてはいる。かといって、俺のほうとしては、あの男に関わってほしいとは思えなかった。
あの男は結局、俺にとっての実家だったあの家を売り払った。その金で新しい家でも買うのかと思ったけど、結局、そうはせずに、賃貸のマンションにあの女と子供と一緒に引っ越したらしい。
もやもやと考え込んでいると、心配そうな声で柊翔は言葉を続ける。
『もう、進路は決めてるのか?』
今の高校の学費や、柊翔の家での生活費、もろもろをあの男が払ってくれてることは知っている。いわゆる養育費、ということなのだろう。しかし、それは高校までのはずだ。なにせ、あの女の子供がいる。もう籍を入れたかどうかは知らないが、一緒に生活しているのだ。これから、もっと金もかかってくる。そうしたら、俺の金銭的面倒など見てなどいられる余裕なんかないはずだ。
それでも母さんへの仕打ちに怒っていたおばさんは、大学に行く金ぐらい出させるわ、と鼻息荒く言ってた時期はあった。当時の俺としては、苦笑いするしかなかったけど。
「……やっぱり就職かな」
基本的に進学校であるうちの高校に、就職希望者は多くない。だから就職の情報もほとんど入って来ないらしい。それならそれで、自分で探さなきゃいけない。そう思って、これからのことを考えると気が重い。柊翔への返事も、どこか不安な響きを隠せない。
『要。金の心配をしてるのか?』
「……まぁ、ちょっとは」
『一応、世の中には奨学金という制度もあるんだぞ』
「俺だって調べたよ。でも、結局はあいつの収入とか色々関係あるみたいだし……面倒なんだよ、そういうの」
『要……』
電話越しでも、想像できる。柊翔はきっと、すごく困った顔をしているって。大きなため息が聞こえてくる。
――ごめん。
俺の方も、顔がくしゃりと泣きそうになる。
『まだ、就職するとか決めるのは早いからな』
「でも、もう色々動かないと」
『とりあえず、金のことは考えないで、進学したい大学とかないのか』
金を考えないで、なんてありえないのに。それでも、必死な様子を感じ取った俺は、仕方がないなって、思ってしまう。俺は目を瞑りながら、前から少しだけ気にしてた大学の名前が頭をかすめた。行けるとは思えない。だけど、ポツリとその大学の名前が出てしまった。
『……あそこか。あそこだったら、うちからだって通えるじゃないか』
「通えるかもしれないけど」
『とにかく、諦めるな。きっと、方法はある』
その言葉に、俺は素直に返事は出来なかった。
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