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第2話 春の嵐(2)

 ファミレスには、親子連れの他に、俺たち同様、卒業式の後の制服を着た高校生のグループが何組かいた。時期が時期だからか、うちの高校以外の制服もいる。 「そういえば、鴻上先輩、戻ってきてるの?」  佐合さんが、大きな口を開けながら食べているのは、果物がたくさんのっている季節のフルーツパフェだ。それも特大のヤツだから、ヤスと二人で交互に食べてる。二人のほのぼのした様子を見ながら、俺は餡子と生クリームののったパンケーキを食べている。 「まだ」  温かい緑茶をすすりながら答える俺。 「え。もう大学とか春休みなんじゃないの?」 「ああ、大学はね。でも、剣道部の練習とか、バイトが忙しいみたい」  そう。柊翔は大学へ行っても剣道を続けている。その上、その大学には亮平もいて、亮平も剣道部だというのだ。全国大会に出ている亮平に声がかかって、それに柊翔も呼ばれてしまったらしい。大学の剣道部って、どんなんだろう、と思ったけれど、柊翔たちの大学の剣道部は、そこそこ強いらしく、毎日とは言わないまでも、週に三回は練習に参加してるらしい。  その上、叔父さんからの紹介ということで、叔父さんの家の近所の喫茶店のバイトもしているらしい。もともと、叔父さんの務めている弁護士事務所の所長だった平仲さんという人が引退して、コーヒー好きが高じて喫茶店を始めたらしいんだけど、これが意外に人気店になってしまったそうだ。柊翔が手伝う前までは、お孫さんが手伝ってくれてたらしいんだけど、結婚してすぐに妊娠してしまったらしく、その所長さん、一人でてんてこ舞いになってしまったらしい。今では、柊翔の他に、近所の奥さんと、その娘さんが手伝ってくれてるらしいんだけど、それでも柊翔も入らないと大変らしい。 「ああ、その喫茶店だったら、SNSで見かけたことある」  そう言うと佐合さんは携帯を取り出して、検索を始めた。 「えーと。『平仲珈琲店』だったよね?」  思い切りシンプルに、所長さんの苗字をそのまま使ってる。普通、もうちょっと洒落た名前にするんだろうけど。それでも、人気があるっていうのは、美味しいんだろうって思う。 「へぇ、お店の中、お洒落だね。お、これがマスター?うわ、なんかイケメンなおじいちゃんだわ」 「どれどれ」  並んで座ってる二人が顔を寄せて画面をのぞき込んでる。楽しそうに画面を動かして、二人で話してる。その様子を微笑ましいなぁ、と見ていたんだけど、突如、二人の顔が強張った。 「どうかした?」  俺は、佐合さんの手元を覗きこもうと立ち上がった。 「あ、いや、なんでもない、なんでもない」 「お、おい、要、もう、食い終わったのか」 「ああ、食い終わったけど」  そういう二人は、まだパフェが残ってる。 「じゃ、じゃあ、コーヒーでもおかわりしてきたらどうだ」 「……なんか、あからさますぎなんだけど」  呆れたように言うと、二人は困ったような顔になる。 「何、なんか、俺が見たらヤバそうな画像でもあったの?」  本当は、俺も何度か検索して見ている。たぶん、それのことだと思う。

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