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第3話 春の嵐(3)
俺は大きくため息をつく。俺も初めて見た時は、すごく不安にもなったし、傷ついた。
「柊翔とバイトの高校生の写真でしょ」
「あ、うん」
そう言って見せてくれた画像は、俺が見ていなかった最新の画像で……腕を組んでニッコリ笑ってる姿だった。
『シュウトとアキがお待ちしてます』
柊翔の腕に絡みつく手。隣の女の子が、柊翔のことが好きなのがわかる、嬉しそうな笑顔。柊翔への好意が溢れてる。ふわふわの緩いくせ毛で明るい茶髪を顎のラインで揃えてる。大きな瞳に白い肌。見るからにモテそうな女の子。背の高さも、柊翔の肩くらいしかなくて、可愛らしい感じだ。こんな子に懐かれたら、普通の男ならコロッと落ちてる。それを見て、やっぱり、小さくため息が出てしまう。
宣伝文句なのは頭ではわかってる。わかってても、ムッとしてしまうのは、どうしようもない。そんな俺を心配そうに見つめる二人に気が付いて、慌てて笑顔を貼り付けた。
「だ、大丈夫だって。要」
「そうだよ。きっと、鴻上先輩も、こんな風に使われてるって知らないんじゃない?」
「……いや、このアカウント、柊翔から教えてもらったんだ」
「……あぁぁ、そ、そうなんだぁ……」
そう。こんなのやってるから、と教えられていた。柊翔の様子もわかるから、嬉しい反面、むしろ嫉妬心を煽るような画像も多いから、嬉しくないことのほうが多い。それを柊翔はわかってない。貼り付けてた笑顔も、簡単に剥がれていく。
そんな俺を見て、見るからに『なにやってんのよ、鴻上先輩っ』って顔してる佐合さんに気付いて、思わず、笑ってしまう。
「え、なんで笑うの?」
「いや、俺なんかより、佐合さんのほうが怒ってるみたいで」
「そりゃ、そうでしょ!宣伝だってわかってても、好きな相手を不安にさせるようなことするとか、信じらんないっ」
「あ、茜、落ち着け」
佐合さんの声が徐々に大きくなってきたものだから、ヤスのほうが慌てだす。ほんと、この二人、いい感じだよなぁ。
「だって、要くんが、こんなに我慢してるのに」
「いや、でも、マメに電話で話はしてるよ。」
「マメってどれくらい?」
「……い、一週間に一回?」
「それ、マメって言わないから」
完全に佐合さんは怒ってしまったみたいで、ヤスがどんなに宥めても、ぶうぶうと柊翔に対して文句ばかりが止まらない。俺も、それくらい言えればいいんだろうけれど、柊翔も大変なんだろうって思うから、何も言えなくなる。
「そうだ。じゃあ、三人で、この店に様子見に行こう?」
「は?」
「えぇ?!」
俺とヤスは驚いて佐合さんを見つめてしまう。
「だって、こういうのっていくらでもねつ造できるし。ちゃんと現場を見て、要くんも安心したほうがいいって」
「いや、でも」
「鴻上先輩、こっちにいつ戻るって言ってた?」
佐合さんが身を乗り出して、俺のほうに問い詰める。彼女の勢いに飲まれて「こ、今月の終わり頃?」と答えてしまった。
「……何、それ」
佐合さんの声がワントーン下がった。と、同時に空気もひんやりしたものに変わった気がする。目付きもちょっと怖い。
「要くん、行こう」
「え?」
「絶対行くからね」
そう言い切ると、残りのパフェを凄い勢いで食べ始めた。その剣幕に、俺とヤスは、佐合さんを、呆然と見つめるしかなかった。
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