4 / 29

第4話 春の嵐(4)

 さすがに、ファミレスの後、すぐに行くには時間が遅いということで、今度の週末に三人で行くことを、約束させられてしまった。かなり、強引に。 「絶対に、鴻上先輩には内緒ね!」  佐合さんの真剣な顔に、俺は頷くしかなく、突撃当日は、あっという間にやってくる。  天気は花曇りで、あまりいい天気とはいえない。少しずつ暖かくなっているとはいえ、まだハーフコートが手放せない。  ホームで一人、電車を待っていると、賑やかな中学生くらいの男女の集団が通り過ぎていく。俺が中学生の頃も、こんな風に無邪気に笑って過ごしてたのを思い出す。今の俺は、あんな風には笑えない。  駅のアナウンスが聞こえてくると、その後、すぐにホームに電車が入ってきた。ヤスから、後ろから三両目、というメッセージが来ていたので、俺はその車両が止まる辺りまで歩いていると、止まった電車のドアから「要!こっち!」というヤスの声が聞こえた。手を振っているヤスのところまで駆け寄る。 「おはよう」 「おう」  二人で仲に入ると、ボックス席に座っていた佐合さんが手を振った。 「おはよう。要くん、ちゃんと眠れた?」  にこやかに笑いながら挨拶をする佐合さん。小袋入りのミルク味の飴を差し出してきたので、ありがたく、それを受け取る。今日は機嫌が良さそうでホッとする。彼女の向かい側に座りながら、飴の入ってる小さな袋をピリリと開けた。 「まぁ、普通に寝れたと思う」  飴を口の中に放り込んだ時。 「嘘つき」  佐合さんは、そう言いながら、自分の目の下を指先でなぞって見せる。 「それ、クマじゃないの?」  言われて慌てて、自分の目の下に手を伸ばす。 「え?マジ?」  俺は携帯を取り出して、インカメラの画面にして目の下にあるクマを確認してしまう。俺からすれば、佐合さんが言うほども気にならないんだけど。 「まぁ、気にするほどでもないだろ。女の子じゃないんだし」 「何言ってるの、ヤスくん。これから、鴻上先輩に会うのに、万全の要くんのほうがいいに決まってるでしょ」 「え、いや、佐合さん、そんなに気合いれなくても」 「入れるでしょ。ここは」  佐合さんが、思いのほか強気で、俺もヤスもタジタジとなる。 「まだ次の乗り換えまで時間あるから、要くんは少し寝て。せっかくのボックス席だし」 「あ、ああ」  とりあえず、佐合さんの言う通り、瞼を閉じて窓際のほうへと身体を傾けた。そう簡単に眠くはならないだろうと思ってたけれど、カタカタと心地よい揺れと、暖房の暖かさで、簡単に睡魔は訪れた。

ともだちにシェアしよう!