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第5話 春の嵐(5)

 目的の駅につくまで、二回くらい乗り換えをした。ここまで遠出をしたことがなかったから、乗り換えの駅の人の多さには、びっくりした。駅での乗り換えも、どこに行けばいいのか、迷いながらだったから、目的地に着くころには、お昼過ぎになってしまった。完全に日帰り旅行だ。  三人で駅の改札を抜ける。駅前周辺は、自分たちの地元とそう変わらない。カフェやファーストフードの店が多い感じで、若干、こっちのほうが洒落てる気がする。俺の目の前を二人は携帯を覗き込みながら、向かう場所を確認している。  その後ろ姿を見て、まるでデートをしてるようで、俺は本来はお邪魔なんじゃなかろうか、という気がしてくる。しかし、二人の雰囲気は学校にいる時と同じに和やかで、俺に気を遣う感じでもない。きっと実際にデートの時も、二人はこんな感じなのかな、と思うと、思わず微笑んでしまう。 「喫茶店で何か食べる物あるよね」 「それこそ、SNSに載ってたじゃん。ほら、これとか。昔風のナポリタンとか」 「旨そうだね」  三人で地図を見ながら歩いていると、いつの間にか周囲は静かな住宅街で、俺たちの話し声も自然と小さくなっていく。 「あ、あれじゃない?」  佐合さんが指さしたのは、少し古い感じの一軒家。入口らしき所に、カフェの看板が立てかけられている。黒板にチョークで可愛らしいイラストや、メニューの紹介のようなものが書いてあるみたいだ。  店のそばまで来ると、出窓のところから中を覗き込んでみた。そこは、ちょっと古い感じの落ち着いた店内で、でも中のお客さんは、若い女性が多いみたいだ。それはきっと、オーナーでロマンスグレーの平仲さんと……やっぱり柊翔の存在なんだろうか。奥の方を見ると、カウンターの中に立つ、白いシャツに黒いエプロンをした柊翔がいた。 「わ、やっぱり、鴻上先輩、相変わらず、カッコいいね」 「茜、俺の前で、それ言う?」  二人の言葉を小耳に挟みながらも、俺も柊翔の姿に惚れ惚れする。鴻上の家では、あんな格好なんかしない。お正月以来の柊翔の姿に、頬が緩みそうになった瞬間。柊翔の隣に、あの可愛らしい女の子が近寄ってきて話しかけている。それに対しての柊翔の笑顔が……あんまりにも優しそうな顔をするものだから、ギュッと胸を締め付けられるような痛みが走る。 「へぇ……鴻上先輩って、あんな顔するんっ……イテッ!?」  ヤスの言葉に、佐合さんが足を踏んだみたいで、ヤスは片足を上げながら痛そうな顔をしている。 「ヤスくん、デリカシーないのねっ」 「ちょ、あ、茜ちゃん」 「佐合さん、落ち着いて……」  俺は二人……というか、佐合さんを宥めながらも、正直、ちょっと居た堪れない気分になっていた。

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