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第6話 春の嵐(6)
もう一度、店内を見ると、女の子のほうが俺たちに気が付いたみたいで、柊翔に窓のほうを指さした。だけど、柊翔の彼女に向ける優しい表情を見ることに、俺のほうがもう我慢できなくなってしまった。下手すると、涙まで出そうになる。自分がこんなに弱いとは、思わなくて、情けなくなる。信じてる。信じてはいるけれど、俺といるよりも、ここにいるほうが楽しいのかなって、思ってしまう。
柊翔がこっちに視線を向ける前に、俺はヤスの背後に回った。
「ゴメン、俺、やっぱ無理」
「要くん……」
「悪いけど、二人で中行ってくれる?」
俺はなんとか言葉を振り絞った。ちょっと掠れてしまったかもしれない。たぶん、相当、酷い顔つきをしてたのかもしれない。佐合さんが、泣きそうな顔で頷いた。ヤスもいつになく真面目な顔をすると、俺の肩に手を置いた。
「わかった。要、駅前にあったファストフードの店、覚えてるか?」
「ああ」
「そこで待ってろ」
「……ごめん」
俺は二人に大きく頭を下げると、逃げるようにその場を去った。
そこからは、もう、どうやって駅前まで戻ったかはわからなかった。よく泣かなかったと、自分でも思う。駅前にたどり着くと、ヤスが言っていたファストフードの店が見えたが、カウンターの前がかなり並んでいるようだった。時間がかかりそうだな、と思った俺は、同じ並びにあった書店の中に入った。
その書店は思いのほか、奥行きがあって驚いた。何か目的があるわけでもなく、俺はうろうろと店内を歩き回ると、いつの間にか、スポーツ雑誌が並んでいる棚の前で立ち止まった。色々並んでいる雑誌の中、つい手が伸びるのは剣道の雑誌。表紙に試合のワンシーンなのだろう。互いに同時に面に打ち込んでいる姿に、ゾクッとする。双方が隙を見極めて手を伸ばす瞬間。つい、高校時代の柊翔の試合のシーンを思い出してしまう。接戦で亮平に勝った時のことを。
「……要?」
剣道の雑誌を手にしたまま立っていた俺に、誰かが声をかけてきた。いや、この声は聞き覚えがある。俺はゆっくりと雑誌から、声がしたほうに目を向けた。
「……亮平」
そこには、大き目な紺のリュックを肩にかけた、ベージュのステンカラーコートにジーンズ姿の亮平が立っていた。
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