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第11話 春の嵐(11)
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俺の目の前に、亮平と大学の剣道部の先輩だという朝比奈さんが並んで座っている。チーズバーガーはすでに食べ終わり、俺たちはトレーにぶちまけたポテトを無言で食べている。三人分のだから、かなりの山盛り状態だ。それも、亮平はジッと俺を見つめながら、黙々と。朝比奈さんのほうは、そんな亮平と俺を交互に見比べている。
「要くん、だっけ?馳川とはどういう知り合い?」
優しく問いかける朝比奈さん。この人は、柊翔の先輩でもあるんだ、と思ったら、ちゃんと答えないと、と思った。
「えと……幼馴染……みたいなものです」
俺がそう答えると、亮平はなんだか嬉しそうな顔をした。それを見た朝比奈さんは、不思議そうな顔をする。
「へぇ……じゃぁ、鴻上とも知り合い?」
柊翔の名前が出ただけで、俺の顔は一瞬強張ってしまった。だけど、なんとか平静を装うように、視線をはずしながら「そうですね」と答え、ストローでコーラをずずずっとすすった。
「要は、俺同様、幼馴染で柊翔の高校の後輩ですよ」
「そうなんだ。剣道もやったりするの?」
他意はないんだろう。だけど、『剣道』はいまだに俺の中では触れて欲しくない部分なので、短く「いいえ」とだけ答えて、窓の外へと目を向けた。
なんとなくだけど、この二人、ただの先輩後輩の距離感じゃないって、俺でもわかる。本人たちは気づいているのか、いないのか。なんというか、朝比奈さんのほうが、先輩なのに気を使ってる感じで、亮平もそれに気づいて、合わせてるような雰囲気。言葉の端々でも感じ取れる。せっかくの休日に、その二人の間に俺なんか入っちゃって、よかったんだろうか、と不安になって、亮平と目を合わせる。
「……どうした?」
どちらかというとあまり感情を表に出すタイプではなかった亮平が、心配そうな顔で見つめている。
「いや……俺、邪魔じゃない?」
二人の顔を見比べながら、一応、気を使ってそう言ったのに、亮平のほうは逆にムッとした顔をする。一方の朝比奈さんは苦笑い。
「何、言ってるんだ。せっかく久しぶりに会えたのに、邪魔とか思うわけないだろ」
「まぁまぁ。馳川も、そんな怒るなって」
「怒ってませんって」
不機嫌そうに言う亮平に、俺も朝比奈さんも苦笑いを浮かべる。俺はゆっくりと、窓の外へと視線を向ける。駅前だけに、思いのほか人が多い。
「なぁ……柊翔に会いに来たんだろ?」
「……」
「一人で来たのか?」
「……」
俺は、なんとなく答えたくなくて、ずっと外を見続けていると、ヤスと佐合さんらしき姿が見えた。てっきり、あの店で食事をしてくるんだろうと思ってた。戻って来るにしては、早すぎる。俺は慌ててバッグの中のスマホを取り出す。そこには、ヤスからの『どこにいる?』というメッセージが届いていた。
「どうした?」
「友達」
「なんだ、一人じゃなかったのか」
亮平の少しがっかりしたような声に、小さく笑うと、そのままヤスに電話をかけた。
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