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第12話 春の嵐(12)
上から見ている俺に気が付いていないヤスは、携帯が突然鳴りだしたことに、驚いている。
「あ、あれ?」
「うん」
亮平と朝比奈さんが窓の外へと視線を向け、ワタワタしているヤスを見下ろす。
「ヤス?早くない?」
『そんなことより、今、どこ?』
「そっからすぐのハンバーガー屋」
『え?どこどこ?』
「二階。手振ってるんだけど」
挙動不審になっているヤスに気が付いた佐合さんも一緒になって周囲を見ている。先に俺を見つけたのは佐合さんで、俺たちの方を指さした。すると、ヤスと佐合さんは、すぐに一階のカウンターのほうへと走っていった。
「あの男のほうって、前に大会とかで会ってるよな」
紙コップに残っていた氷をガリガリ食べながら、亮平が問いかけてきた。
「……うん」
ヤスとは一年のころ、柊翔の剣道の試合の時に会っているはず。あの頃のことを思い出すと、苦い思いのほうが多かった。
「三人で遊びに来たの?」
朝比奈さんが、優しく笑いながら聞いてきた。
「……ええ、まぁ」
「女の子もいたけど、あの子は、あの男の子の彼女?」
「そうです」
「へぇ……要くんは、彼女とかいないの?」
話の流れで、そう聞いてきたのはわかっていても、俺としては苦い笑いしか浮かばない。
「要っ」
トレーに何やら山ほどのせて現れたヤスと、その後をついてくる佐合さん。ヤスは俺が亮平たちといるのに、ちょっとだけ驚いたようだけれど、すぐに小さく会釈した。佐合さんのほうは、ヤスの後ろに隠れてしまってる。
「ランチ、食べてこなかったのか?」
ヤスたちは、通路を挟んで隣の席に座り、亮平たちのほうに視線を向けた。
「ああ、ちょっとね。えと、そっちの人たちは?」
「ヤス、亮平は前に会ってるだろ?」
「……ああ、要に告白した人っ!」
「おいっ!」
ヤスがあんまりにも大きな声で言うので、思わず立ち上がる。ヤスの言葉に、亮平も唖然とするし、佐合さんもびっくりしている。なんとなく気になって朝比奈さんを見ると、心なしか顔が青ざめているように見える。
すると、突然、亮平が思い切り笑い出した。
「え、何?笑いすぎじゃない?」
「いや、俺の印象って、剣道とかじゃなくて、そっちなんだ、と思ったらさ。クククッ」
「あー、そういや、鴻上先輩と試合してましたっけ。でも、俺の印象は、要に手酷く拒否られた印象のほうが強いんで」
その言葉に、亮平は苦く笑いながら、チラリと朝比奈さんに目を向けた。その視線を受け止めた朝比奈さんも、心なしか、ホッとした様子。やっぱり、二人には何かありそうだな、と内心思いながら、俺はヤスに向かって、注意する。
「ヤス、そういうの、大きな声でこんなところで言うなよ」
俺の言葉に、ヤスも周囲を見回して、テヘッ、と舌をだして「ごめん、ごめん」と謝った。
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