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第13話 春の嵐(13)
ヤスたちが到着した時には、まだ山盛りだったポテトも、最後の一個が俺の口の中へと消えていく。隣の席の二人は、まだ半分くらい残ってた。本当は、二人にあの後どうなったのか聞きたいところだけれど、目の前の亮平と朝比奈さんがいるところでは、聞きづらい。困ったな、と思いながら、窓の外を見ると。
「あ、やっと来たな」
「えっ」
今度は亮平が窓の外へと手を振る。そこには、駅前の通りをキョロキョロしている柊翔がいた。
「え、ちょっと。亮平、どういうこと」
「あ?お前の様子見たら、わかるっての」
チラッと俺の方に視線を向ける亮平。柊翔の方は、亮平のほうに気が付いていないみたいで、苛ついた顔で周囲を見渡している。
「チッ、仕方ねぇな」
そう言うと携帯を取り出して立ち上がり、電話をし始める。
「お、おい」
「あ、柊翔。こっち。あー、違う、反対側」
亮平の言葉に反応して、こっちを向いた柊翔と目が合った。その瞬間、柊翔は、嬉しそうな顔をした。俺は、それを素直に喜んでいいのか、よくわからなくて、泣きそうになる。俺は視線をそらし、テーブルの上を睨みつける。そうでもしないと、涙が零れそうだったから。
「ほら、泣くな」
優しい声で、綺麗なハンカチを差し出してきたのは朝比奈さんのほうで、亮平はそれを見て、フッと笑う。
「早く来いよ、要が泣いてる」
そう言い切ると通話を切って目の前の席に座った。
「泣いてない」
俺はなんとかそう反論したけれど、顔を上げることが出来なかった。
「お前、我慢しすぎなんだよ」
「我慢してない」
「……人の家で生活すんの、大変だろ」
亮平の言葉に、思わず身体がビクッと反応する。もう一年近く、鴻上の家にお世話になっていて、大変も何もない。すっかり、おじさんやおばさんにも可愛がってもらってる。だから、大丈夫なんだ。
そう思ってたはずなのに、亮平の言葉が俺の胸の奥にしまってた何かを揺さぶった。
ポツリと、膝の上で握りしめていた手の甲に涙が落ちる。
「あ、遅いぞ。柊翔」
亮平の言葉に、慌てて涙を拭う俺。
「要、ごめんっ」
柊翔は亮平の言葉に応えるよりも先に、俺のほうに謝ってきた。
「ひ、久しぶり。何。なんか、柊翔、悪いことでもしたの」
俺はなんとか顔を作って柊翔のほうを見ようとしたんだけれど、やっぱり、どうしても顔が見られない。柊翔は俺の隣に座ると、俺の顔を覗き込もうとした。
「泣かせてごめん」
「な、泣いてないよぉ」
涙を拭いながら、顔を上げるけれど、柊翔の顔を見たら自然と涙が零れてしまう。
「要」
柊翔が優しく抱き寄せる。俺は、泣けてくる自分が悔しくて、「うー」と唸りながら、柊翔の腕の中で涙を堪えることが出来なかった。
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