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 教室へ向かう最中、ザワザワと騒がしい中に口論が聞こえた。  今更聞こえなかったというわけにもいかず、野次馬精神で騒ぎの中心へと足を向けている生徒達も抑えなければいけない。一生徒会役員としてこれは仲裁に入らなければならない。  面倒な気持ちに蓋をして笑みを貼り付ければ、周りの生徒たちは紅葉に気づいてモーゼの十戒のように道ができた。 「なぁーにしてんの……って、水嶋先輩?」  真っ先に目に入ったのは自身の親衛隊隊長を勤める水嶋の姿。冷たい床に座り込み、赤く腫れた頬に手を当てながら鋭い目つきで口論の相手だろう生徒――日之を睨みつけていた。  驚いたことに、喚き散らす日之と口争っていたのは水嶋ではなく、クラスメイトの摂津だった。すぐそばには桜宮もいる。 「先輩……? 先輩どうしたの!?」  慌てて駆け寄る紅葉の姿を確認した水嶋はこぼれんばかりに目を見開いてはわなわなと唇を震わせた。  紅葉の登場に、ざわついていた場がしぃんと静まり返る。 「し、らのせ様ぁ…」 「紅葉!! 俺、紅葉のために頑張ったんだぜ!? 親衛隊は悪い奴なんだ!! だから、紅葉はそいつに脅されて俺と仲良くできないんだろ! もう安心だぜ、悪い奴は俺がやっつけるから! そこの二人だって俺の邪魔してくるから、悪いやつに、」 「――うるさい」  誰も聞いたことのないような低い声音が場を制する。  浮かべていた笑顔をくしゃりと歪めた日之はどうして、と小さく呟いた。 「……水嶋先輩、大丈夫、じゃないよね?」 「白乃瀬様?」 「ごめんね、僕がしっかりしてなかったから……」 「!? そ、そんなこと……! 白乃瀬様は悪くありません!!」 「それでも、僕の気がすまないんだよぉ……水嶋先輩はゆっくりしてて? すぐに保健室連れてってあげるから」  先程の、怜悧な表情を浮かべていたとは思えないほど柔らかい表情。にっこりと瞳を和らげたまま、日之に視線を向ける。だが、その瞳には水嶋に向けていた暖かさなんてどこにも存在していない。 「都君、摂津ぅ、説明してくんなぁい?」  後に摂津は語る。この時の白乃瀬は視線で人を殺せた、と。

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