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水嶋の治療も終わり、用があるからと三人を先に帰した紅葉は保健医と二人保健室にいた。
「……で、なぁに? 僕だけ残しちゃって」
ベッドに腰掛け、紅茶を啜っている保健医を見る。
「四日前、白乃瀬君の実家にお邪魔させてもらったよ」
「……は?」
「月霜家の者としてね、私の従兄弟に用があったんだよ。今は白乃瀬の実家にいると聞いていたから」
月霜家の者として。
保健医・月霜雅の生家である月霜家は代々従者の素質に溢れた者が多く、一族の殆どが官僚の秘書だったり、執事だったり、女給だったりといった給仕職についている。ごく稀に保健医のように囚われない者もいるが、本当にごく少数のこと。
そこではて、本家に月霜姓の給仕がいただろうかと首を傾げた。
「そうしたらね、なぜか当主さん直々に呼び出されちゃって」
「あぁ、催促されたんでしょぉ」
苦々しく言えば、微かに笑いを零して否定される。
てっきり帰ってこいの催促だと思っていた紅葉は拍子抜けし、目を見開いて驚愕を顕わにした。
「じゃあ、なに?」
「白乃瀬から一人、学園に転校させるからって。その子の従者なんだけどね、私の従兄弟は」
「転校……? あ、僕の弟ですかぁ? 留学から帰ってきて」
「いや、灯秋夜 君だよ。従兄弟なんだってね。少しだけ話をしたけど、君に会えるって嬉しそうにしてたよ」
ずぐん、と骨が軋んだ。
秋夜。幼い頃から自分を好いてくれる同い年の従兄弟だ。最後に会ったのは五年前のお正月だっただろうか。それ以来会うことはなく、高校は神奈川の半寮制私立校に通っていると聞いていたがまさか転校してくるだなんて。
サッと青ざめた紅葉に気付かず、従兄弟の話を続ける保健医に酷く苛立ち、遮ろうと声をかけた。
「でも、なんでそれを僕に話したわけぇ?」
「今日、秋夜君が迎えに来るらしいから伝えておこうと思ってさ」
「……。迎えに来る!? 秋夜が!?」
「不都合でもあるのかい?」
「……ありまくりだっての」
深く息を吐き出してうなだれる紅葉を胡乱げに見る保健医だったが、話は終わりだと早々に追い出そうとする。
「一つ、せんせーに忠告。秋夜には近寄んないほーがいいよぅ」
意味深な言葉だけを残し、紅葉は早足で保健室を後にした。
考えることは夏休み明けに転校してくる従兄弟のこと。どうにかして接触を避けなければ、それだけが紅葉の脳内を支配していた。
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