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 送迎の車の中、腰の鈍い痛みに眉を顰めた。  いつもは綺麗に整えられている金髪も今は見る影もなく、眼鏡がないぼやける視界に更に眉が寄った。  夜中の二時を回った頃だ。学園を出たのは十一時頃。隣には眠りこける従兄弟がいる。  肩にもたれかかる灯を起こさないようにしばしばする目で携帯の画面を睨んだ。  メール作成画面が開かれ、宛先には宮代の名前が入っている。  ――急遽実家に帰ることになっちゃった。  件名に謝りを入れて手短に本文を打っていく。  ――会計の仕事ほっぽっちゃうけど、置いといてくれていいからね。  絵文字も顔文字もない質素なメール文に思わず呆れてしまう。白金や水嶋にも似た内容のメールを送信して詰めていた息を吐き出す。  窓の外は暗く、高速道路を走っている車の灯りが眩く輝いていた。 「お休みになられてもよろしいのですよ?」 「……そんな気分じゃない」 「秋夜様がいらっしゃるからですか」  疑問符のない、答えのわかりきった問いかけに視線を下げる。  柔らかい口調だが、どこか刺々しく攻撃的だ。 「わたしは一介の侍従に過ぎません。けれど、わたしの主は秋夜様ただ一人。いくら従兄弟だからといって、あまり秋夜様を悲しませないでいただきたいものです」  言いがかりにも近い彼の言い分に口を閉ざしてしまう。  もう嫌だと何度となく思った。  彼は苦手だ。従兄弟も苦手だ。家族が苦手だ。誰も本当を見てくれない。見ようとしてくれない。 「………貴方には、ふうわさんにはわからないよ」  奪われて捕らわれて縛られて追い詰められる気持ちなんかわかるはずもない。  鏡越しだが、初めてまっすぐに見据えてきた目にふうわは息を呑んだ。  暗い、色の無い瞳。  たった十七年しか生きていない子が、なんて目をしている。 「誰も僕なんか見てくれんよ。アキも、作られたマヤカシを見てるだけ」  だぁれも、ほんとうなんか見てないんよ。  歌うように紡がれた言葉は小さくなって消えた。

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