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空が赤く染まる。
夕暮れ時、黄昏時、逢魔が時──呼び名は様々だ。その筋の専門家は大禍時とも呼ぶらしい。
悪いモノが集まりやすいこの時間は外に出歩かないようにと言いつけられていた。
「一緒に遊ぼう」
部屋の外からだ。襖を隔てた向こう側から女の子の声がした。
本家に少女は生まれていない。分家の子がここまで来たのだろうか。
「ダメや。ぼく、今夜から潔斎なん。それに今は黄昏時やから外に出たらあかんねん」
「だいじょうぶだよ、わたしがいるもん。ちょっとだけだからさ、一緒に遊ぼうよ」
何を根拠に少女は言っているのか。もしや少女は小鳥遊の子だろうか。あそこは彼の安倍一族の血を引いており、退魔の術に優れている。それなら自信満々な理由もわかる。
「遊ぶんなら部屋ん中でもいいんじゃないん? 出たら大お祖母様に怒られるよ」
「大丈夫。だいじょうぶだよ。だから遊ぼう。ねえ遊ぼう。遊ぼう。遊ぼう。遊ぼうよねぇねぇねぇねぇ」
「っひ」
狂ったように言葉を繰り返す少女に背筋を震わせた。
よく耳を澄ませば、なにかガリガリとひっかく音が聞こえてくる。襖が揺れ動き、ときおり隙間から覗く目が真っ赤に充血し、ぎょろりと動いては目線が合いにたりと笑みを描く。
「や、やぁ、いやや! いやっ! たすけ、誰かっ! あに様ぁ!!」
だんだんと襖の隙間が広がっていく。
息を呑んで見ていれば、隙間から腕を差込みこちらに手を伸ばしてくるではないか。指先が真っ赤に染まり、畳に赤い物が滴った。
そこで不思議なことに気がつく。隙間から覗く背景が真っ黒だった。おかしい。不可解だ。部屋の前はガラス戸で開けた庭が見える仕様になっているはずで、真っ黒だなんてありえない。それにしたって先ほどまで空は赤かった。夜の闇とは違う塗りつぶした黒に恐怖した。
「あそぼう」
喉が鳴りうまく息を吸えない。過呼吸のように呼吸が乱れる。目をかっぴらき、こめかみからはとめどなく汗が流れた。
手足の先から冷えていき、心臓を握られる苦しみにくず折れた華奢な躯。
「あそ、ぼう?」
隙間から入り込んできた少女は腕を伸ばす。
見れた容姿じゃなかった。痩せこけた頬に目がぎょろつき、手足は細過ぎる。骨と皮だけの体に肩が震えた
畳を這いずり、赤い雫を落としながら手を伸す少女から逃れようと後退するが、足がもつれてうまく進めない。
「ぁ……っ!」
伸ばされた手が肌に触れる。
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