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 たった一週間休んで、学業に復帰してからはとにかく面倒くさかったとしか言い様がない。  ことあるごとに出会う教師や生徒に驚かれては噂の的にされ、公式の学園行事などでしか使ったことのない『生徒会会計役員』の腕章を腕につける羽目となったのだ。  娯楽に敏感な生徒たちにかかれば一日で学園中に噂が広がっているだろう。新聞部はさっそく号外を出しているみたいだ。 『突如現れた憂いの黒髪美人!? ――その正体は会計様!!』やかましいわ。なんとも悪趣味である。 「紅葉くーん、迎えに来ちゃった」 「風璃さん……だから、僕生徒会室行かなきゃいけないんだってばぁ」 「風紀室で待ってるからさ」  それはつまり早く仕事を終わらせて来いと言っているのか。  呆れつつも生徒会業務が終われば風紀室へ足を向けてしまう自分が憎い。  一度思いの丈をぶちまけたからか、神原は以前にも増しちょっかいをかけてくるようになった。昼休みになればお昼を誘いにやってきて、放課後は寮へ帰るだけなのに送ってくれたり、朝は迎えまでしてくれる。  自分の中で何かが変わった。あるいは神原が変わったのか、 いつの間にか彼の隣が心地いいとさえも思えてきた。 「……体育祭の話し合いあるから遅くなりますけど」 「うちも同じだからだいじょぶよん」  ブイブイとピースを作る神原に諦め半分呆れ半分で頷く。  紅葉が了承したのをしっかりと見届け、絶対にひとりで帰ったらダメだよ? と何度も言い聞かせてくる神原はどこか母親のようである。  念には念を、と。  手を振りながら風紀室へ向かっていくのを教室の前で見送って、急ぎ道具を詰め込んだ鞄を取って生徒会室に向かう準備をするが少々遅れそうな予感だ。  前の机には摂津が座り、ニコニコとこちらを見ている。果てしなく面倒な匂いがする。 「……じゃ、摂津も早く帰りなよー」 「待て待て待て!! 明らかにお前のこと待ってんじゃん! 目ぇ合ったじゃん!? なんでスルーできんの!!」 「は? 僕急いでんだけどぉ」 「十分くらいで終わるから! 副会長にも連絡済みだから! 付き合ってくれ! 今がチャンスなんだ! 水嶋先輩がいなくて、風紀委員長もいない……! なんて好都合! というわけで、新聞部の摂津として生徒会会計の白乃瀬紅葉に取材を申込みたい!」  あまりにも真面目な表情で言い寄られつい頷いてしまう。  突進でもしてくるのかとつい身構えてしまうほどの勢いと気迫に断れるほうがおかしい。あそこまで言われて断ってしまうのは逆に摂津が可哀想だった。  特に最近は紅葉が何をするにも親衛隊の誰か、もしくは神原が引っ付いて牽制をしあって冷戦状態が繰り広げられていた。あの饒舌な言葉の争いは頭が良くないと出来ない。たまに宮代も面白半分で交ざりに来ては収集のつかないことになるのだから困りものだ。  横で聞いていれば恥ずかしい言葉ばかり(主に紅葉が)で、摂津や七竈も理不尽なとばっちりを食らっていた。若干の罪悪感から取材を受け入れたところもある。  七竈と黒マジックでデカデカと落書きされた机に座る摂津と向かい合って椅子に腰掛けた。  数人いたクラスメイトも摂津によって追い出されており、昼間の騒がしさが嘘のようにガランとしている。 「てか、摂津って放送部じゃなかった?」 「兼部してんの。言ってなかったっけ? 放送部メインだけど、この時期はいろいろあるじゃん? ランキングとかとかとか」  七月のメインイベントと言えば体育祭。そして長期休暇が始まる前に一回目の人気ランキング発表。十月に入れば文化祭。  意外と行事やらイベントやらが盛り沢山で生徒会も忙しくなるのを思い出し、げんなりした息を吐いた。 「そんじゃ、適当に答えていってちょんまげ」 「あはは、それ古いよ」  メモ帳をめくりペンを持った摂津に頬杖をついた。 「んー、まず皆気になってるとっから。ぶっちゃけ、なんで黒髪にしたのさ?」 「ぶっちゃけるもなにも、うちの大お祖母様が金髪なんて不良やめなさいってさ。知ってるでしょーうち神社なの。ねぇ、僕黒髪似合わんの、金パのがいいよねぇ」 「そこは好みの問題だろ。けど俺も金パのが好きだったなー。黒髪も似合ってるぜ? 清純そうで、マニアックなのが釣れそう」  思わずジト目で睨みつける。  否定できないのはすでに被害に合っているからでもあるのは口が裂けても言えない。どこで誰が聞いているのかわからないのだから、それに親衛隊の誰かが知れば必ず隊長の水嶋の耳に入ってしまう。これ以上護衛とやらが増えるのは勘弁だ。 「実際白乃瀬の実家が神社ってわかってる奴そんないないと思うけどな。んじゃ次。体育祭は仮装借り物競争に出場予定だけど首尾はどう?」 「……はっ!? 仮装借り物!?」 「……お、おおっとぉー? その反応はもしかして知らなかった?」 「だって誰も何も言わないから!」 「あー……誰か言ってると思ったら誰も言ってなかったパティーン……正直すまんかった」  悪びれもなく言っては早く答えろと急かす摂津を殴りたい。こういう時だけ真面目なんだから。  仮装借り物競争にはいい思い出なんか何一つない。  去年も家庭の事情で体育祭出場競技決定に出られず勝手に決められてしまったのだが、それが仮装借り物競争だった。  名前の通り仮装してお題に沿った借り物を借りてきてゴールする、至って簡単かつシンプルな競技――なわけもなく、仮装は着る者の羞恥を煽り、見ているものを興奮させる衣装を。借り物のお題は無理難題を。  一部の生徒には大人気、また一部の生徒には大不評の仮装借り物競争は毎年止めるか止めないかで生徒会の議題にもなっている。それでも中止されないのは長年やってきた伝統行事に食い込んでいるからだ。 「ま、頑張ってくれたまえ。去年のミニチャイナはなかなかにそそった」 「思い出させないでくれるかな」  黒歴史以外の何物でもない去年籤で引いた衣装は深いスリットのミニチャイナ。  お題は比較的ましな物で、「自分より背の高い親衛隊員」だった。酷いものでは「宮野先生のお・パ・ン・ツ☆」とかがあったそうな。誰得だろうか。 「とりあえず、去年よりマシな衣装だったら何でもいい」  至極マジな顔だったと摂津は後に語る。

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