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 屋敷の中は木の香りに溢れていた。  すれ違う人みんなが神原に頭を下げて、ちらりと紅葉に視線を投げかけた。「お前誰やゴルァ」というような視線に、本当に自分なんかぎ来てもよかったんだろうかと言葉を飲み込んだ。 「ここ、俺の部屋」  美しい緑の庭に面した十二畳の和室は、綺麗に整頓されていた。  寮の部屋も、そういえば整理整頓がなされていたのを思い出す。そういうのが得意なんだろう。  壁際に並んだ本棚と、衣装棚。文机。座椅子。  畳のにおいは、実家を思い出して気持ちが落ち着かない。  神原の部屋は、「風璃さんのにおい」でいっぱいだった。 「ここで、紅葉君には二つの選択肢があります」 「……なんですか?」 「客間で寝るか、俺の部屋で寝るか」  にぃんまり、イヤらしい笑みを浮かべた神原。紅葉が困っている様を眺めて楽しんでいる。 「紅葉君」  長い腕が伸びて、薄っぺらい体を抱きすくめられる。 「ずっと会いたかった」 「……僕も、です」  学園では、神原と共に過ごす時間が長かった。隣に神原がいて、香水の匂いがして、ずっと心が温かい。  毎日顔を合わせていたのだ。夏休みだから、数日会わなかっただけでとても寂しかった。  神原に侵食されているのは自覚している。 「……ご迷惑でなかったら、同じ部屋で、寝たいです」 「――かぁわいいなぁ。あは、そう言うと思って、もうここに布団用意してもらってるんだ」 「じゃあ、最初から選択肢はないようなものじゃないですかぁ」  困ってる紅葉君が可愛くて、と笑う神原。  部屋の隅に荷物を置いて、手招かれる。 「ん……」  誘われるがままに、ベッドに腰掛けた神原に抱きつく。深く息を吸い込むと、胸いっぱいに彼のにおいが広がった。  触れるだけのキスを交わす。角度を変えて何度も唇を触れ合わせ、どちらともなく薄く開いた隙間から舌を絡ませた。  神原とのキスが好きだ。肌を撫でる大きな手のひらが好き。頬をくすぐる指先が好き。  体を交わらせると、心も重なり融け合うような気持ちになる。 「んっ、ふぅ、あ、ぁ、ぁ、か、風璃さんッ」 「ふはっ、好き、すきだよ、紅葉君」  達するとき、必ず「好き」と言われる。そのたびに腹の奥が震えて吐精してないのにイってしまう。  はしたなく喘ぎ声を零して、けれどあられもない声を出すたびに神原が嬉しそうに笑うから声を我慢しようとも思わなくなった。 「すき、好きっ……! 紅葉ッ」  頭を強く抱きしめられて、深く腰を突き入れられる。  ぐりぐり、と深く、深くねじ込まれた熱が胎を抉り、イイところを掠めて、入っちゃいけないところまでイってしまう。 「あぁ、アッ、アッ、だめっ、かざりさんっ、し、死んじゃうッ気持ちいい……!」 「いいよ、もっと気持ちよくなって」  自分ばっかり気持ちよくなって、余裕のある彼が憎い。けれど、快感を享受することしかできない紅葉は首を横に振り、顔を真っ赤にして耐えた。 「イケよッ」  ぐ、と最奥に穿たれて、背すじが震える。 「アぁッ――ァ」  下腹部が痙攣して、強すぎる悦楽に目の前で火花が散った。  お腹が熱くて、全身の穴から汗が滲むようだった。

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