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 三日目は、椿貴とお出かけすることになった。  夜は風璃とともに眠っているが、恋人らしいことはあまりしていなかった。クーラーの利いた部屋で一日だらだらしたり、椿貴とだべったり。  朝ごはんを食べ終わった頃に、嵐のようにやってきた椿貴に誘われるがまま外へ連れ出されてしまったのだ。  あとに残った風璃は怒りとか苛立ちとか呆れがごちゃまぜになった溜め息を吐き出した。  椿貴に貸してもらったサンダルを引っ掛けて、身ひとつで屋敷を出た紅葉は、どこへ向かうのかと問う。 「少し行ったところに、商店街があるんだ。そういうところ行ったことないだろ」 「お店がいっぱいあるとこでしょ。さすがの僕でも知ってるよ」  バカにしてるな、と頬を膨らませれば、花のような顔をくしゃっとさせて笑った。  誰よりも大人びて落ち着いた雰囲気の椿貴は、笑うととたんに幼い印象になる。 「あ、でも財布とか」 「いいよ。俺が出すから、気にしないで」 「……帰ったら、返すから」 「じゃあさ、」  不自然に言葉を切り、立ち止まった。  振り返った椿貴は、眉を寄せて切ない表情だ。笑顔なんてどこにもない。嫌な予感がして、先に言葉を紡ごうと口を開いた。 「つばき、」 「冬休みも、また遊びに来てよ。そんとき、返して」  冬休み、と小さく繰り返す。  冬休みまで、いられるだろうか。一抹の不安が胸をよぎる。  暗くなる思考に囚われかけた紅葉を掬い上げたのは椿貴の切なる願いだ。 約束はできない。できない約束は、しないのが紅葉のモットーだ。  口を噤んでしまった紅葉に、椿貴も言葉を飲み込んだ。  どちらともない、気まずい雰囲気。  中学のときは、空気を読まない誰かが気まずさをぶち壊してくれた。 「神原じゃん、なんか久しぶりー!」  沈黙を打ち破ったのは、聞き覚えのない第三者だった。 「……清水(しみず)、とお前ら」 「なによぉ! 清水とプラスアルファみたいな言い方! せっかく会えたんだからハグくらいしようよ!」  一気に賑やかになった。  ぱちぱちと目を瞬かせると、椿貴の友人(多分?)だろうひとりと目が合う。 「神原の、知り合いか?」 「うーん、僕が言いたいかなぁ、どっちかって言うと」  女の子と、男がふたり。多分、高校の同級生だろう。  風璃と同じくらいの背丈の青年が穂澄(ほずみ)。茶髪の、活発なイマドキ男子が清水(しみず)。ミルクティー色のショートボブの女の子が貴奈子(きなこ)ちゃんだ。  自己紹介をしてくれた彼らは、興味津々に紅葉を見つめる。 「あー……中学の同級生。うちに泊まりにきてて、せっかくだから商店街案内しに行こうと思ってたんだよ」 「えー、あそこの商店街なんにもないじゃん。ウチらファミレス行こうぜって話しててさ、神原たちも一緒に行こうぜ」 「……どうする、紅葉?」 「え、僕に聞くぅ?」  困り顔の椿貴に、紅葉も眉根を下げた。  行くんだったら椿貴ひとりで行けばいいじゃないか、と喉奥まで出かかった。  はじめましての彼らと仲良くできる自信がない。それに、ここは学園じゃあないので人当たりの良い会計様を演じるのは面倒くさかった。 「一緒にアンタも来ればいいじゃないか」  誘ってくれたのは、まさかの穂澄だった。 「いいの?」と首を傾げた紅葉に、「俺もアンタと話してみたいから」と付け足した穂澄を、信じられない目で見るその他三名だった。  

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