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 いったいどうしてこうなった。 「はぁ……」  かたん、と手からペンをすべらせ、溜め息をこぼす。  テキトーに仕事をやって、テキトーに終わらせて、てきとーに、適当に。すべてが適当だった彼自ら率先して仕事を片付けているこの現状は一体全体どういうことか。そもそも、三日前まではいつもどおりだったじゃないか。何がどうしてこうなった。いちから十まで説明を求めたい。  若干ヤケになって仕事を捌く白乃瀬紅葉(しらのせこうよう)は、こめかみに走る痛みに眉根をきつく寄せ合わせた。眼鏡の奥に潜む琥珀色の瞳疲労を滲ませる。  いつもなら可愛らしく結わえられている淡い金髪は無造作にひとつに結ばれている。傷んだ毛先を手で梳きながら、ぼぅっとクリーム色の天井を見つめる。  もともと白い肌が、ここ最近の不健康な生活のせいでさらに青白く、目の下の隈がとてもよく目立っていた。柔らかい雰囲気に甘い微笑みが人気の紅葉だが、今はその面影もないほどにやつれてしまっている。  生徒会としての本領を発揮し、選んでくれた生徒や教師に実力を見せなければいけない一番大切な時期だというのにも関わらず、現生徒会で仕事をしているのは会計の白乃瀬紅葉ただひとり。  ほかのメンバーはと言えば仕事放棄だ。  ありえない、馬鹿なんだろうか。口には出さないものの胸中ではずっと思っていた。  新学期が始まって二週間、学校行事やらイベントやら、処理しなければならない書類やら案件やらがたくさんあるというのに。  サボり癖のある白乃瀬であるから面と向かって言えないが、この時期に仕事放棄、しかも全員というのは少々いただけない。サボるのはいいが、時期と状況を判断してからにしてほしいものである。  家の都合で学園を留守にしていたたった三日間でこの有様。帰ってきた昨日の夜、生徒会室を訪れ、デスクに溜まりまくった書類の塔を見て愕然とした。  生徒会室に来るどころか登校していなかった自分の机に書類が溜まるのはわかる。だがしかしなぜほかの役員たちの机にも溜まっている。  もう一度深く息を吐いた。  誰かひとりでもいい。戻ってきてほしい。そしてさっさとこの溜まった書類たちを片付けて欲しい。そして僕はお昼寝をしたい。 「遊び人紅葉君はどこに行ったんだよぉ……真面目すぎじゃねーの僕ぅー……疲れた怠い帰りたーい……おなかすいたぁー」  かけていた赤縁の眼鏡を外して眉間を揉みしだく。  伊達眼鏡、とファンの間で囁かれているが実際問題、紅葉の視力は眼鏡がないと何も見えないくらい悪い。もはや眼鏡は体の一部である。むしろ眼鏡が本体。  夜遅くまで暗い室内で読書をしているのが原因だとはわかっているのが、寝る前の読書はなかなかやめられない中毒性がある。心を落ち着かせるのにはうってつけだし、何よりも精神安定剤のひとつなのだ。  生徒会室にこれ以上篭っていたくない。これ以上生徒会室(ここ)にいても仕事が進むとは思えない。精神的疲労が溜まっていく一方だ。  寮へ帰ろうと時間を確認する。 「……九時過ぎてるしー」 「食堂閉まってるし、最悪」と零した紅葉は寮部屋の冷蔵庫に何か入っていただろうかと思い出す。  白乃瀬紅葉に生活能力を期待してはいけない。以前チャーハンを作っていただけなのに謎の暗黒物質を錬成してしたことがあり、それ以来寮のキッチンが役割を果たしているところを見ていない。  小さく呟かれた言葉がしぃんとした生徒会室の床に落ち、なんともいえない無力感が広がる。  嘆いていても仕方ない、と提出期限の迫った書類をそれぞれのデスクからかき集めて空っぽのスクールバッグに詰め込んだ。徹夜確定の書類の量にまた溜め息が溢れる。  夕食食べてる時間がもったいないなぁ。冷蔵庫にヨーグルトとか入ってたっけか。  バッグに入りきらなかった書類を腕に抱え、落とさないように細心の注意を払って生徒会室を出た。役員に配られているスペアキーで鍵を閉め、しっかり閉まったのを確認する。  どっと押し寄せる疲労に息を吐き出し、寮へと足を向けた。

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