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 会計様、白乃瀬様、と頬を染めて話しかけてくる生徒たちを笑顔片手に振り切りながら紅葉は早足で会議室へと向かっていた。腕時計で時間を確認すれば会議が始まるまで五分もない。  まさか、会長と副会長が仕事をしないだけでこんなにも忙しくなるなんて思ってもみなかった。書記が不在ということもあるが、ここで神宮寺と宮代の有能さが表に出てくるとは思わなかった。有能すぎるというのも考えものだ。  生徒会は春に新規メンバーで活動を始めたばかりだが、すでに昨年から書記、会計として生徒会役員をしていた神宮寺と宮代はさすがというべきかほとんどの仕事内容を把握しており、幼馴染ということもあってコンビネーションもバッチリ、処理能力も抜群に素晴らしかった。  一緒に仕事をするにあたって紅葉はプレッシャーを感じていたのだが、ひとつ年下の書記はそうでもないらしい。  口数は多くないが、物怖じしない性格でわからないことはちゃんと聞ki 、神宮寺にも気に入られている。その書記はと言えば、今どこで何をしているのかまったくわからない。聞いた話だと今現在国内にいないとか。  どういうことだよ。 「っ遅れてすみません」  背後を気にしながら追われるように会議室の扉を勢いよく開けた紅葉に、中にいた生徒たちは驚きながらもなんとなく察した様子で苦笑を漏らした。 「遅かったね白ちゃん。なんかあった?」 「……すんません、宇宙じ、日之君に捕まっちゃって……」 「それは、大変でしたね、白乃瀬君。あの子に追われて逃げ切るとか、疲れたでしょう」 「三十分くらい逃げ回るハメになりましたよ……」  連日の徹夜が祟ったのか今日に限って寝坊してしまい、会議に使う書類を取りに生徒会室へ行けばなぜか当たり前のように来客用のソファでお菓子を貪る日之がいたのだ。  左右を神宮寺と宮代に挟まれて各々の親衛隊が見たら発狂するだろう光景にげんなりしながら、大声で投げかけられる言葉に適当に返事をして書類を探すのはなかなか苦労した。  幼稚園児みたいに食べカスを顔いっぱいどころか髪にまでつけて、不快ではないのだろうか。  書類を準備し終える頃にはお菓子を食べ終わった日之にウザ絡みされ、両脇の二人に睨まれ、散々である。 「やっぱ僕最後ですかぁ。ほんと、遅れてすみません」 「気にすんなよ。アレに絡まれちゃあ仕方ない」 「逆にアレを振り切ってここまで来れたことを褒めたいくらいですねぇ」  労いの言葉をかけてくれる体育委員長の坪田と図書委員長の一澄(ひとすみ)に軽く頭を下げる。  生徒会から本来出席するのは会長である神宮寺の役目だが、生徒会室で見たあんな心ここに在らずといった様子で参加されても困るのは他の委員長たち。  有能で完璧と思われている神宮寺のイメージを崩したくなかった紅葉が独断で参加代理を決めたのだ。あらかじめ参加するのは紅葉だと伝えていたおかげか、委員長たちは心暖かく迎えてくれ、密かに心の奥で安堵した。 「じゃ、全員が揃ったところで始めようか」  保健委員長の保村(やすむら)のセリフにざわついていた室内がしぃんと静まり返る。  議題は新入生歓迎会の詳細決定と役割の確認。  参加しているのは各委員会の委員長と生徒会会計、親衛隊総隊長と副総隊長。  ほとんどが三年生の中で会長代理にして唯一の二年生である紅葉に場を仕切る度胸と器量があるわけもなく、一澄が議長として会議をキリキリ進めてくれることに感謝した。 「学年の交流を兼ねての立食パーティー、または学園敷地内を使って全校鬼ごっこ、という案が出ていますが他に何か違うものがいいという意見がある人はいますか? ない場合は多数決を取りたいと思います」  紙の捲る音が響く会議室。誰も意見を上げる様子がないと判断を下した一澄は、立食パーティーか鬼ごっこか多数決を取る。  あまり運動が得意ではない紅葉は立食パーティーに手を上げた。

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