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多数決の結果――立食パーティーが五人、鬼ごっこが五人。五分五分の結果にちょっとしたざわめきが広がる。
立食パーティー派が白乃瀬、神原、一澄、保村、美化委員長。鬼ごっこ派が坪田、放送委員長、クラス委員長委員会委員長、親衛隊総隊長、副総隊長だ。
結果は五分五分だが、有利なのは鬼ごっこだろう。立食パーティーなど去年、一昨年もやっており、親についてパーティーに行く機会の多いこの学園の生徒たちは体を動かせるときに動かしておきたいという思考の生徒が多かった。
もちろん、インドアな生徒はとことんインドアであるのだが、見た目的に運動ができそうな紅葉も、実のところインドアな部類に属している。去年の体育祭なんて散々だった。運動はできないから簡単なのにしてくれと頼んだ結果が、……この話はまたの機会にしよう。思い出したら思い出したでモチベーションが下がってしまう。
「五分五分ですか……それじゃあ、反対意見などありましたら好き勝手に喋ってください」
「えっ、急に役割を放り出さないでちょうだいよ一澄ぃー」
「私語は謹んでくださいな保健委員長」
「だったらちゃんと議長やってくださーい図書委員長さぁーん」
やけに仲のいい掛け合いを見せる保村と一澄に、困惑する紅葉はとりあえず何も見ていないフリをして議案書に視線を落とした。
熱く甘い感情のこもった保村の視線に、見ているこっちが小っ恥ずかしい気持ちになってくる。
一澄がまったく相手にしていないにも関わらず甘ったるいセリフを吐く保村にめげる様子は見られない。「またか……」と呆れを含んだ表情の委員長たちからしていつものことなのだろう。
いつものことにしても、時と場所を選んでほしかった。
「いい加減煩いです保村。今日は白乃瀬君がいるんですから自重したらどうなんですか」
「……なんで会計君が関係あるのさ」
まさか話題に引っ張り出されるとは思わなかった紅葉は紙から顔を上げて目をぱちくりと瞬かせる。
隣に座っていた神原は、飾らない年相応の表情をあらわにする紅葉に、そんな顔もできるのだと驚きながら事の顛末を眺めるに徹する。
三学年の名物となっている保村の求愛 はいつものことながら、いつもだったらそんな甘言を総スルーの一澄から紅葉の名前が出たことにも驚いた。
誰に対しても博愛主義な紅葉と誰に対しても丁寧で真摯な一澄に接点があるようには見えないのだが、隠れた関係だったりするのかと下手な勘ぐりをしてしまう。
一澄のこととなるとすぐに熱くなる保村のことだ。納得するまで引かないだろうし、会議が再開されることはないだろう。
神原自身も保村同様に二人がどんな関係なのか気になっており、他の委員長と同じく息を潜めて場を見守ろうではないかと息巻いた。
「そりゃ、俺の大切な白乃瀬君にこんなところ見せたくないからに決まってるでしょ」
「……は?」
爆弾が落とされるまでは、そう思っていたのだ。
保村に射殺すような目で睨めつけられ、効用は縮み上がる心臓の早まる鼓動を耳にしながら隣に座る神原が内心なにを思っているのかなんて知らずに助けを求めて縋り見た。
ひとつ訂正をしておくが、一澄とは決してそんな関係ではない。
「俺(の弟)の大切な(友人の)白乃瀬君」と副音声が入っているのを忘れてはならない。が、保村や神原たちに副音声が聞こえているはずもなく面倒くさい誤解が室内に広がっていくばかり。
ちょっとした効用の事情で一澄の弟と同級生と言うのは隠しておきたいのだが今は関係ない話題なために以下省略。
「会計君、あとで校舎裏ね」
テンプレートとなっているヤンキーの呼び出し台詞でガンをつけてくる保村に狼狽えながら、誤解を解こうと必死になればなるほど鋭利になる眼光に焦る。
「ま、ちが、和々汰 さん!! 和々汰さんが変なこというから誤解されてるじゃないですかぁ!」
「白ちゃんが名前呼び、だと……!」
そこでハッと、自身が犯してしまった間違いに気づいて顔色が青くなっていく。
やってしまったとうなだれる紅葉に、反論を講じる気力などなく、保村の容赦ない毒舌がグサグサと胸に突き刺さった。
「違う、違うんですってばぁ……」
「何が違うのかしっかりきっちり隅々まで説明してもらわなきゃ納得できないんだけど。どんなに仲いい友達でも名前呼びしないので有名な会計君がなんで俺の一澄を名前呼びしてるわけ?」
俺のもの発言にギョッとしながらも思考停止し始めている脳を無理やり働かせて言葉をひねり出すが、どうにもこうにもいい言葉が出てこない。
「そ、それより、会議しましょーよ……」
「会議は後からでもできるし、俺は白ちゃんと一澄の関係が知りたいなぁ」
「神ちゃんもそう言ってるし、どっちみちやっすーが納得しなきゃ会議は再開できないだろうねぃ……がんば、シロ」
「他人事だと思って……」
「だって他人事だし」
人を犬みたいに呼ぶ美化委員長の舞南 はケラケラ笑って天井に向けて親指を立てた。GJ、彼なりの「頑張れ」だが、紅葉には「会議進めたいからさっさと逝けよ」と言っているようにしか見えなかった。いやむしろ今にでもその親指が地面に向くのではないかと不安になる。
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