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008*新入生歓迎会*

 ――ついにやってきてしまった新入生歓迎会。  日之とファーストコンタクトを果たしたあの日以降生徒会室を避けるようになった神宮寺と宮代を捕まえ、「見えるところではせめて仕事をしてくれ!」と怒鳴りつけたい気持ちを必死に抑えて新入生歓迎会の説明するのに思いのほか労力を使った。始まってすらいないのに疲労困憊である。  随分とくたびれ疲れ果てた様子を見せている紅葉の横を歩く一澄は笑顔絶えずニコニコ満面の笑みだ。 「今からでもいいから中止にしましょーよぉ……こんな状況でやっても悪いことしか起こりませんってぇ」 「縁起悪いこと言わないでください。疲れてるのはわかりますけど、白乃瀬君は目の保養、いえいえ、白乃瀬君のことを楽しみに待っている生徒もいるんですから、笑顔笑顔」  そんな安売りみたいに言われても。  ポンポンと、頭を撫でられ慰めてくれる一澄に絆されそうになるが、目の保養というのは聞き捨てならない。  容姿は整っている方だと自負はしているが男の目の保養になどなりたくないものだ。なるのなら女性に見つめられたい。目の保養にするなら女性がいい。 「笑顔くらいどうってことないでしょ。ランキング五位の人が何を言ってるんですか」 「抱きたいランキング四位の人がなにを言ってるんだかー」  ランキング四位。一澄は紅葉よりも上の順位を持つ人気生徒だ。さっぱりと整えられた黒髪に意思の強そうなきりっとつり上がった瞳、柔和な微笑が素敵な図書室の主様として人気を確立している。  誰が言い始めたのかは知らないし一ミリも興味ないが、つまるところの抱かれたいランキングは誰に抱かれ、食べられたいか。抱きたいランキングは誰を抱いて愛したいか、という非常にしょうもないランキングとなっている。本当にバカバカしい限りだ。  名だたる進学校の内側が、こんなランキングで盛り上がり出来上がっていると知られたら一体どうなるものなのか。そしてそんなしょうもないランキングに入ってしまっている自分自身が情けない。初めてこの恵まれた容姿を憎く思った。  向けられる視線にへらっと力ない笑顔を見せれば歓声が上がり、それ遠い目で見ながら先日行われた新歓の会議を思い出す。  鬼ごっこに決定しそうだったところをどうにか立食パーティーにならないものかと試行錯誤して意見を言っては見るのだが、親衛隊総隊長にことごとく却下されてしまった次第である。  人員問題や敷地内の問題などを踏まえて委員長たちと企画しなおしたらなんだか凄いことになってしまった。更には今の三年生が一年生のときに行われたバトルロワイヤル(!?)がなかなかに楽しかったという放送委員長の発言が積極的に取り入れられてしまい、ただの鬼ごっこではなくバトルロワイヤル風鬼ごっこにまで発展したのだ。最悪である。 「はぁ……」  ほんとどうしよう。  一人として捕まえられる自信がない。  自慢ではないが、春の体力測定のシャトルランで真っ先に脱落するくらいには体力がない。その回数なんと三十回。紅葉よりも小さく華奢な生徒たちより早く脱落してしまったのに悔しさどころかもはや何も感じなかった。そこらへんの女子高生よりもしかしたら体力ないんじゃないだろうか。  体力がないんだからしかたない。持久走なんてもってのほか。おかげで体力測定は毎年E判定だ。小学生の頃はまだ人並みだったのに。これが老化か。  体力の無さには誰にも負けない自信がある会計様の運動音痴は全校生徒が知っている。もはや周知の事実。恥ずかしい。穴があったら入りたい。そして一生引きこもっていたい。 「めんどくさー」 「まぁまぁ、そんなこと言わないで。実は俺かなり楽しみだったりするんですから」  といつも以上に満面の笑顔でいる一澄に、どうにもテンションの上がらない白乃瀬紅葉は微妙な苦笑を漏らした。  各委員会委員長の代表として説明を行う図書委員長と会計の珍しいツーショットに整列した生徒たちは、どんどん下がっていく紅葉のモチベーションとは反対に、どんどんテンションを上げていく。  もちろん、彼らが盛り上がっていくのはそれだけではない。バトルロワイヤル風鬼ごっこを勝ち残った勝者に与えられる優勝賞品も、熱を上げさせる要因ひとつだ。

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