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風立って嵐-03

 肋骨を締め付けるように腕が回され、大きな手がブレザーの上から奏衣の胸を包んでいる。 「奏衣、やっぱ細いな。俺の腕の中にぴったり。心臓がどくどく言ってるよ。俺にドキドキしてくれてる?」 「心臓どくどくしてなかったら、死んでるだろ」  ふふっと息をこぼすような笑いがくすぐったくて、首をすくめる。背中に当たる皐月の胸だって制服越しに心音を伝えてくる。こんな風に意識してくっついているのは初めてだから、その音がいつもより大きいのかはわからない。  不器用そうな長い指の手が、紺のストライプに光るネクタイにかかった。 「おまえ、何勝手にネクタイほどいてんだよ」 「さっき奏衣が息苦しいって言ってたから。襟元ちょっと緩めてあげようと思って」 「それ、変態オヤジが女子高生に言うやつだから」  皐月は言い返してはこないでネクタイをほどいてしまうとみっつボタンを外した。ちょっと緩めるという程度ではないほどシャツがはだけ、隙間ができた襟元に柔らかい唇を押し付けられた。いつもより長く、つけるだけではなく吸い付かれ、その下がじんと疼く。 「おい!跡つけんなよ!」 「あ、ほんとだ。赤くなってる」 「え?」  腕の中でもがくが、強く抱きこまれているから振り向くことができない。 「これってどれくらい残るの?なんかやらしー。奏衣、色が白いから綺麗にくっきり」 「はっ?ふざけんなよ、このドーテーが!もう絶対跡つけんな!」  顎を後ろ向きに傾けられ、罵るばかりの可愛くない口を塞がれた。あっさり受け入れたキスはやっぱりいつもと違う。濃厚でもなんでもないのに、内側まで侵食される気がする。  皐月のことを『このドーテー』呼ばわりしておきながら、自分だって唇をくっつけるだけのキス以上のことはしたことがない、奥手同士だったりする。  少しだけ唇に隙間を開けると、触れるところは途端に湿り気を帯びていく。ぬめっとした舌先が唇の内側をかすめ、驚き思わず顔を離した。それだけでふたりの周囲の空気に随分熱がこもった気がする。  今度は振り向くのを皐月が許したから、ぐるりと反転して窓を背にする。やたらチャラい男のブレザーの胸をいきなりドンっと押すとスカートを揺らしてよろけた。 「も、何すんの、いきなり」 「なんか似合うなー、おまえ」  二度目に見ても笑ってしまう。女っぽくもないし、華奢でもないし、メイクもしていないのに妙に似合うのは、足のすらっとしたラインが綺麗でバランスがいいからか。 「ごめんね、可愛くて。なんでも似合ちゃって、困る困る」 「うん、可愛い可愛い。なぁ皐月、もっかい足ドンして」  反応が面白いから、なんて言ったら素に戻りそう。そう思って、らしくもない笑顔を見せると、勢いよく窓枠に白いスニーカーが乗せられた。

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