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第7話
それから数日は 穏やかな日が続いた。
〈今日は仕事の人たちと飲み会です
晩ごはん、いりません!よろしく~〉
講義が終わって帰ろうとしてた矢先
メールがはいった。
今日も早番だった要のために
晩メシに腕を振るおう!
なんて思ってたのに…
急にやる気がどこかへ飛んでいった。
『いないんなら適当でいっか』
作るのも面倒くさくなって
コンビニに寄って弁当を買って
家に帰る事にした。
そして、その夜
要は しこたま酔って帰ってきた。
『たーだーいーまー ♪』
『おかえり。ご機嫌だな』
『うん!そーなの~!聞いてよ~!
すんごいビックリする事があってさ~』
『へぇ…、なに?』
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して
コップに注いで渡してやる。
要は美味しそうにゴクゴクと
一気に飲み干して 嬉しそうな笑顔を向けた。
『隆之、岡ちゃんって覚えてる?』
『──────え?』
岡ちゃん…
岡田…先生…
覚えてる?
……覚えてる
忘れた事なんか1度もない
岡ちゃん……
高校の担任で…
要が…3年間 好きだった…ヤツ……
それが、なんで…その名前が…今更…
今になって出てくる…?
『岡ちゃんね~ここが地元なんだって~!
たまたま行った飲み屋で偶然ばったり再会!
ビックリしちゃった~!』
『…………』
………会ったのか
……偶然……再会……
『隆之~?聞いてる?』
『───聞いてる』
『でね~、岡ちゃん、友達の結婚式で
帰ってきてるんだって~!それでね……』
『………』
久しぶりに会って…
要は 岡田をどう思ったんだろう…
こんだけ機嫌がいいところをみると
嬉しかった?
昔の気持ちを思い出した?
また 好きに……なった…?
『で~、岡ちゃんがね~』
『………っ…』
嬉しそうな…要。
高校の岡ちゃんを好きだった頃の要は
こんな顔…だった……
──苦しい
胸が…ザワザワする…苦しい……
『ちょっと、聞いてんの?』
『………っ、もういい…』
『えっ?や、最後まで聞いて…』
もういい。
もう、聞きたくない…
要の口から 岡田の名前なんて……
『隆之……?』
まだ話を続けようとする要を 強引に抱きしめて 唇を塞ぐために顔を寄せた。
『た、隆之…っ…!』
だけど、キスは……
唇が触れる寸前で…要の手の平に拒まれた。
───なんで……
こんな時まで……
胸が痛い……苦しい……
『…隆…之?』
『キス、……そんなにイヤ?』
『え?…イ、イヤじゃないけど…
俺っ…、その、酒臭いから…』
なんだ、それ…
言い訳するにしたって
もうちょっと 上手くやってくれ…
『……そう』
『……?どうかした?』
『……なんでもない。ごめん』
『……隆…之…あの…あのさ…』
『もういいって。
酒臭いの気になるなら風呂 入ってくれば?
俺はもう入ったから。…な?』
『………。………うん、分かった』
いまいち納得してない様子ではあったけど
要は スルリと俺の腕からすり抜け離れた。
『………っ…』
遠くなる背中。
要の心まで一緒に離れていく…ような
そんな錯覚に胸が張り裂けそうになる。
『いてぇ……』
痛い
胸が…痛い…痛い…
もし要が岡田を選んだら……
俺はどうすればいいんだろう…
聞かなかったくせに
要が何を話そうとしてたのか
聞かなかった事を後悔した。
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