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第5話

「俺が間違ってたんだ、気にするな」と勝手に言われた。 「なんですか?」 「お前、だいぶまえにそのチョコレート買ってただろ。自分用なら、どうして、すぐに食べなかったんだ?」 「自己チョコは、バレンタインのチョコレートです。だから、バレンタインの日に食べるものだと思います」 「なるほど、」と東城はあまり納得していないようだがうなずいた。 広瀬は、食べ終わった箱に蓋をした。それから東城を見る。 「東城さんは、食べないんですか?」 「なにを?」 「この、もらったチョコレートです」 ローテーブルのチョコレートを示す。 東城は、また自分を不審そうに見ている。不審そうというか、なんというか、動物園の見慣れない動物を見るような、そんな目だ。 「食いたいのか?」 「どんなチョコレートなのか興味はあります。美音子さんからのとか、美味しいでしょうね」と正直に答えた。 彼は、手近なチョコレートの箱をとった。 無造作に包装をあけると、宝石箱のような濃いオレンジ色の四角い箱がでてくる。開けると、5粒の丸い形のチョコレートがはいっていた。それぞれが細かな模様がついている。 彼が箱ごと差し出した。 「いいんですか?」 「いいよ。どうぞ」 「東城さんは?」 「俺は、今日はいらない。明日以降、気が向いたら食べる」 「そうですか」バレンタインのチョコなのに。 「今日は、なんとなく、食う気にはなれないから」と彼は言った。後半は呟くようだった。

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