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第178話
「見てるよ」
「見てないじゃん…!」
唯はずっと俺を見つめてきていて花火なんて1度も見やしていなかった。
なのに唯は見てるよって言う。
「玲緒ごしに」
そう言われてやっと意味が分かった。
俺の瞳に映る花火を見ている、とそう言ったのだ。
「〜もう!さっきからからかってるでしょ!」
「ははっ、からかってないよ」
唯は俺の髪の毛をわしゃわしゃと撫でて滅多に見ないような無邪気な笑顔で笑っていた。
「……唯」
「ん、どうした?」
「………好き」
「…俺も好きだよ」
気恥しさを感じながらも横を見ると、唯は柔らかく笑っていた。
浴衣似合っててかっこいいなぁ…。
「キス、してほしい…」
「…人いるけどいいの?」
いつもは人がいる前で、なんて絶対嫌で極力避けていたんだけど今は別に気にならなかった。
それより早く触れ合いたかった。
俺の中のこの気持ちは言葉ではうまく言い表せなくて、今日みたいな唯が初めてだからかもしれないけど…
少し、遠くへ行ってしまいそうでこわかった。
「んっ」
唇に触れる温かい感覚がだんだんと刺激を増して頭をどろどろと溶かしていく。
そしてちゅっ、というリップ音を響かせて、熱源は離れていった。
「………家、帰る」
会場には未だ花火を打ち上げる度に起こる拍手や歓声で賑わっていた。
「分かったよ、歩けるか?」
そう聞いてくる唯はニヤッと口角をあげて微笑んでいて、緩く立ち上がり始めていた俺の股間部分に気が付いていた。
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