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第193話

「俺、おかしくなっちまった」 高2の夏、拓斗はそう言って虚ろな瞳で空を見上げていた。 その時は俺も夏の暑さにやられたのか、なんて思って深く考えなかったし聞かなかった。 確か、軽く相槌を打つぐらいだったと思う。 その日を機に拓斗は喧嘩に明け暮れた。 何かを求めるような、探しているような… ひたすら殴って蹴って相手をどんどん寝かせていった。 俺はそんなあいつの喧嘩を見てるだけで、時々セーブさせたり止めに入ったり。 しばらくそんな日が続いていた。 それがいきなり、糸がプツンと切れたように無くなったのは秋に入ってから。 拓斗は家に引きこもるようになった。 学校にも行ってなかったし、話もしてくれないようになった。 メールや電話をしても全部無視だし、家に行っても拓斗の母親越しに帰ってくれと拒まれるだけだった。 そして2ヶ月後。 拓斗は自分で自分を殺してしまった。 死因は風船用ヘリウムガスの多量摂取による窒息死だった。 突然のことに頭がついていかなくて、現実を受け止めきれなかった。 どうしても心のどこかで嘘だと思い込んでいる自分がいて、拓斗もただ眠っているだけですぐに目を覚ますんじゃないかと思ったりすらした。 引き止められなかったことへの後悔。 あの時、もっと強引に殴ってでも話をすれば良かったと何度も悔やんだ。 あいつを止められたのは俺しかいなかったんだって今でもそう思ってる。 助けてやれなかった、俺のせいだ。

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