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第243話
「あれ…?」
夏樹と話していると、ふと後ろの席に座っている2人の男の人が目に入った。
そのうちの1人は綺麗な黒髪で、紺色のカジュアルスーツに身を包んでいた。
………似てる、けど…遠くからだと本人か分からない。
それに今日は本家の方にいるんじゃないの?
「…ちょっとトイレ行ってくるね」
「おー」
本人かどうか確かめるために俺は席を立ちトイレに行くふりをした。
なるべく2人組が座っているテーブルに近い通路を通ってトイレまでの道を進む。
あまりそちらを見ないように歩いていると、ふわっと良い香りが漂った。
あ、これ、唯の匂いだ。
一緒にいる男の人の顔は、はっきりみないまま少し早足でトイレまで駆け込んだ。
*
「はぁ…」
あれから数分。
唯かどうか確認する事にばかり意識が集中してしまい、人の隣に座っていた人の顔を確認するのを忘れていた。
誰が一緒にいた?
考えを巡らせても出てこないものは出てこない。
ほんとに本人だったら嫌だなぁ、そんなことを思いながらトイレを出ようとした時だった。
「わっ」
下を向きすぎていたので前から来た人にすら気付くことが出来なかった。
謝ろうと前を向くと、さっきまでずっと考え、もやもやしていた原因の本人がいた。
唯は驚いて後ろにバランスを崩しそうになっていた玲緒の腰にしっかりと腕を回していて少し意地悪そうに「危ない」と言って笑っていた。
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