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第258話 唯side
「玲緒待って…!」
玄関から出ていく玲緒の背中に手を伸ばしたけど上手く交わされてしまった。
何かに気がついたように悲しそうな顔をしていた。
もしかして緋水のことを気づかれた?
でも一体なんで?
確かに朝まで緋水はこの家で眠っていたが、ちゃんと片付けまでしたはずだ。
匂いがどうとかって言ってたけど、もしかして緋水の付けている甘ったるい香水が移ってしまったのか?
自分で匂いを嗅いでみるけれど分からなかった。
それに匂いだけじゃ、あんなに悲しそうな顔をするはずない。
今日は玲緒に会えるから楽しみにしてた。
玲緒さえ良ければ泊まって行って欲しかったしたくさん話がしたかった。
もっと頭を撫でていたかったし、抱きしめていちゃいちゃしたかった。
受験が着々と迫ってきていて、ただでさえ不安になりがちだというのに玲緒を甘やかすどころか不安にさせてしまった。
緋水との関係を終わらせるべきだろうが、そう簡単に上手くはいかない。
かといって緋水にばかり気を取られて玲緒を放置しておいていい訳ではない。
緋水も大切な家族で弟だけど玲緒だってそれに負けない存在だ。
過去のトラウマを支えてくれた時を思い出す。
今度は俺が支える、応援するんだって決めたはずなのにそれが出来ていなくて自分に腹が立ってくる。
だけどいくら考えても改善策は見つからないまま。
時計の秒針が立てるチクタクという音だけが部屋を満たしていた。
「何やってんだ、俺」
唯は頭をがりがりとかいて悩んでいた。
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