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第259話

「ひっぐ…っ」 あともう少しで家なんだから、我慢しなきゃ。 そう思えば思うほど涙は溢れて止まらなかった。 目元を何度も擦って涙を拭っているのでだんだん痛くなって赤くなる。 唇をぎゅうっと固く噛んで下を向いて歩いた。 すれ違う人たちは俺の顔をじーっと見てきてその視線が気持ち悪く、悲しく思ってしまうから。 家になんとかたどり着けば「ただいま」も言わず自分の部屋に駆け込み、ベッドに倒れ込んだ。 じわじわと涙が出てくる。 「い、たい……」 胸がぎゅうっとしめつけられるように痛い。 こんな経験、初めて…かもしれない。 唯のことが、分からない。 唯は他の誰かと関係を持っている? …他の誰か、って誰? 俺ではない、誰か。 その相手のことを思うと苦しくなって悲しく、そして悔しくも思う。 そんな時携帯が震えてディスプレイが光った。 「んっ…」 電話になんて出たくない。 声は上ずっていて変だし、涙が止まらない。 唯かもしれないと思う反面、そうでないようにと願う自分もいる。 そのうち携帯が振動をやめて静かになった。 そっと手を伸ばして着信履歴を確認すると『高柳くん』という文字が表示されていた。 落ち着いたようなモヤモヤするようなそんな曖昧な気持ちになる。 気持ち的に話せない代わりにメッセージを送ることにした。 『ごめんね、今ちょっと電話出れなくて…』

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