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第282話
ガチャリと目の前の扉がゆっくりと開く。
「会いに来てくれてありがとう」
「…うん」
初めの会話は、こんにちは、でもおはようでもないそんな言葉だった。
促されるようにリビングへと歩き、いつも座っていたソファに腰を下ろす。
「ごめん、今までのことちゃんと話すから」
そう言ってから唯の話は始まった。
「玲緒は俺が浮気したと思ってるんだよな」
その言葉にやや控えめに頷くと彼はまたごめんと謝る。
「俺には弟がいるんだ、俺にとっては可愛い弟で今も大事にしてる。少し前に助けてって連絡が来たんだ。」
…………助けて?
「どういう、意味だったの?」
「すっごい大雑把に言えば後ろを使って自慰を始めたは良いが、もっと欲しくなった…って感じ。それで俺がしてくれなきゃネットの出会い系で探すとか言い始めて」
「…………うん」
「それで体を重ねた。でもそれからもずるずる迫られて、断れなかった…玲緒の気持ちも考えずに本当に悪かった」
じゃあ弟…ってこと?
「…っ、俺は、どうしたら良いの…」
「できることなら、そばにいて欲しい」
自分勝手だよな…と彼は自嘲気味に笑いながらそう言った。
唯が俺以外の人とそういうことをしたのはやっぱり悲しくて苦しかった。
考えるのも嫌で、俺だけが良いって思った。
「俺、だって…別れ、たくない……っ」
「…ごめん、本当にごめん」
涙が無意識に出てきてぽつりと落ちた。
そしたら唯は俺を強く抱きしめてくれて、少しきつかった。
今日は唯の匂いがする。
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