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第283話

「弟のことは昨日片付けた。もう不安になるようなことはしない、ごめん」 「……うん」 唯が本当のことを教えてくれた今、俺は高柳くんのことを話せずにいた。 話そうとすると嫌だったことを思い出して涙が目の縁に集まってくる。 本当のことを話したら、唯は抱きしめてくれている手を解いて「玲緒も浮気してたんだな」と俺を突き放すだろうか。 分かってほしいはずのに、それがこわくて言えない。 「…玲緒?」 「な、なにどうしたの?」 「…まだ気分悪かったら俺のこと殴ってもいいから」 俺の様子がおかしいと思ったのか唯はそんなことを言ってきた。 唯のことを殴りたいと思うほどの感情の起伏があるわけじゃないし、そもそも悲しくなっただけで怒ってはない。 自分で気づいていないだけで…怒ってたのかもしれないけど。 「ううん、大丈夫だよ」 「そうか…ほんとに悪かった」 「…話してくれてありがとう」 ごめんと謝り続ける唯に俺の心はずんずんと重くなる。 話さなきゃ、唯を裏切ることになってしまうかもしれない。 でもやっぱり話す勇気なんて俺には一欠片もなかった。 それに八坂さんが話せる時に話せば良いって言ってくれてたし………あ、八坂さん…! ずっと待たせたままだ!と玲緒はわたわたと慌て始めた。 すると唯もそれに気がついて「どうした?」と声をかけてきた。 「八坂さんに外で待ってもらってて…」 と、そう伝えると唯は納得したように、あぁ…と相槌をして頭を撫でてきた。 「今日はもう少しここにいてほしい……ダメかな?」 「い、いいけど…」 「ありがとう。俺が八坂に伝えてくるよ、話したいこと…っていうか礼も伝えたいから」 「分かった、じゃあ俺待ってるね」

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