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第286話 唯side

「やだっ、お願いみないで…っ!」 そう言われてももう見てしまったものは記憶から消せないし、忘れることは出来ない。 「玲緒」 「…っ…ひっぐ…あ」 「とりあえず落ち着いて、深呼吸しよう」 「や、いや…っぁ」 泣いて俺から離れようとしない(正しくは顔を見せようとしない)玲緒に優しく抱きしめて応える。 「…俺のこと信じて」 緋水のことがあったばかりでこんなことを言うのはおかしいと笑われてしまうかもしれないがそれより、泣いている玲緒を助けたいと願う気持ちの方が大きかった。 「何があったか教えてくれるか」 そう言っても玲緒は俺の服を握って離さないまま嫌だと涙を流す。 「す、て…ないで」 その言葉に胸がズキリとする。 「あぁ…捨てないよ、」 俺の服の裾を握っている玲緒の手を両手で優しく包み込んで撫でるように握った。 「いつ、何があったのかゆっくり話して」 玲緒はその言葉に小さく頷いて下を向いた。 「昨日、同じ学校の子と……でかけて」 それから玲緒はぽつりぽつりと言葉を繋いでいく。話しながら何度も涙を零して苦しそうだった。 俺は手を握り大丈夫だと宥めることしかできなくて自分自身に腹が立つ。 話を一通り聞いたあと、俺はどうしようもない怒りが湧いてきて仕方がなかった。 俺が頼れないから玲緒は苦しんで辛い思いをしたし嫌な思いもしただろう。 高柳というやつにはいくら罰を与えてもきっと足りないだろうし、玲緒が味わった苦しみには変わらない。

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