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第291話 唯side

夕食を終え、玲緒がお風呂に入りたいと言うので風呂の湯を溜めた。 もういいよ、と言うと玲緒はありがとうと微笑んで浴室に行った。 そんな玲緒を見送り明日の準備をしようと思いつつ、食器を片付けているとガタンッと大きな音がした。 この家には今、俺と玲緒しかいない。 もちろん俺は何も落としていないから、この音の発信源には玲緒がいる。 心配になって浴室の前に駆けつけた。 「玲緒っ、大丈夫か」 「…だい、じょうぶ…なんでもない、」 玲緒には今、性的な干渉を控えている。 怖がらせてしまったり嫌なことを思い出して欲しくなかったから。 だから、今の俺には浴室のドアを開けることも出来なかった。 「………本当か?」 ドアの向こうにいる玲緒の呼吸は乱れているように聞こえて、だいぶ辛そうなのかと心配になる。 「…うん、ごめん…」 「…そっちに行っても良い?」 「だ、だめ…っ、来ないで!」 やっぱり何かあったんだろう。 その何か、は俺には分からない。 自分の無力さが際立って妙に居心地が悪い。 「お願い、何もしないから」 「ダメ、だってぇ……唯、嫌になっちゃうから」 少し涙声が混じっているのか上ずっているその声を聞いて今すぐにでも抱きしめてやりたかった。 そして、ドアをゆっくりと開ける。 玲緒は床に力無く座り込んでいて自分の体を抱きしめるように腕で包んでいた。 「やだ、って…言ったのに」 「ごめん、玲緒のそばに居たくてさ」 冷えてしまった俺より小さいその体を優しく抱き寄せて、玲緒が少しでも安心するように頭を撫でた。

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