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第292話 唯side

「あいつの事を思い出した?それとも何か嫌なことがあった?」 「………りょう、ほう」 玲緒が体に何かを隠しているのに気が付いてそっと手を退かすように促した。 「嫌いに、ならないで……」 「…嫌いになんかならない。だからみせて」 苦しそうなその表情をもう何度も見ていて、そんな顔をしないでほしいと胸が切なくなる。 玲緒の体には無数の所有痕が赤く、ハッキリと残っていた。 引っ掻きでもしたのか掻き跡が残っている。 「汚い、これ、汚いよ……っ、どうしよう、」 「玲緒の体は汚くなんかない」 「だって…っ!」 「汚くない」 「っ…ゆい……」 「大丈夫、…でもそう簡単には忘れられないよな。とりあえず体が冷えてきてるからお湯に浸かろう」 「…うん、………ここにいて」 「分かった」 唯は服を着たまま玲緒を湯船に浸からせた。 玲緒は唯の腕を掴んだまま、離さずにしっかりと握っていた。 「服、びしょびしょ……ごめんね」 「いいよこれくらい」 玲緒は申し訳なさそうな、悲しそうな表情をしながら下を向いた。 それでも手を離さないところが愛しくて仕方ない。 「俺もがんばる、だから玲緒もがんばろう」 何を、とはあえて言わない。 ただ前向きになってほしいと思うばかりで、何も出来ない俺が唯一できることは支えること。 だったらそれを全うしようと強く思った。

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