293 / 337
第293話 唯side
*
「じゃあ行ってくる、良い子にして待っててな」
「うん……ごめんね、ありがとう」
「いってらっしゃい、唯さん」
玲緒を八坂と一緒に組に待たせて俺は約束した場所へ車を走らせた。
組を出る時の八坂のあの威圧的なオーラは多分この先忘れないと思う。
絶対にケリをつけてこい、と訴えるような瞳で強く射抜かれた。
その気持ちは俺だって同じだ。
玲緒に笑っていてほしいし、何も心配せずに安心して過ごせるようになってほしい。
この気持ちは裏切ってしまったという罪悪感も少しはあるが、それよりも玲緒のためにと思う心からだった。
「そろそろだな」
待ち合わせ場所のホテルに着き、フロントに確認をする。
すると高柳はまだ来ていないらしい。
先に入って椅子に腰を下ろした。
しばらくするとトントンとノック音が響き、相手も確認せずドアを開けた。
相手は驚いた顔をして状況が飲み込めないようだったが、俺は無理やり部屋の中に引きずり込んでドアを閉めた。
「…なんで貴方がいるんですか?俺は逢坂くんに会いに来たはずなんですけど」
「もう玲緒に干渉するのは止めろ」
そう言えばもともと機嫌が悪そうだった顔が不服そうに一層顔を歪めた。
「帰りますね」
「帰らせねえよ」
帰ろうとする高柳の前に立ちはだかり、その行く手を阻止した。
「……警察呼びますか?」
「お前だって警察呼べるくらいのことはしてるだろ」
「あぁ…そうですか。…実は逢坂くんの写真のデータ、持ってるんですよ」
これ、ネットにばらいたらもう一生回収できないですねえと言って高柳は笑った。
ともだちにシェアしよう!