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第298話

「ん、ふぅ…」 唇に触れる温かい感触。 それは大好きな唯のもので、恐怖より安心感が勝った。 でも、それ以上先に進むのは汚い体を見せて拒絶されるのがこわくてやっぱり無理だった。 唯の体をゆっくりと押し返す。 唯は拒絶しない、って頭では分かっていても心のどこかでもしかしたら…って思っている自分もいて、唯を信じきれていないのかなって申し訳ない気持ちで重くなる。 大好きなはずなのにな。 「ごめん、唯…」 「謝る必要なんて無いよ、俺こそごめん」 唯は笑いながらそう言うけど、その顔は絶対作ってる。 ショック…というか傷ついてないだろうかと心配になる。 これは完全に俺の問題で俺がどうにかしなければいけないこと。 それこそ唯が謝る必要は1ミリも無い。 「なんとかする、から……」 「しなくていい。玲緒の気持ちが落ち着いて俺と触れ合いたいって思えるまで待ってるよ」 そう言って唯は俺を抱きしめた。 抱きしめられるのも嫌?と聞かれて、嫌じゃないと首を横に振った。 唯の優しさは底を尽きない。 たくさんたくさんお世話になって、とても優しくしてくれて、俺のことを守ってくれて、自分のことより俺のことを一番に考えてくれた。 そんな唯に涙がぽつりぽつりと零れた。 「ご、めん…ごめんね」 「ゆっくりでいいから、玲緒のペースで。これからのことも難しく考えなくて良い、俺が支える」 ありがとうしか出てこないよ。

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