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第329話

「うん、まあまあ進んでるよ」 「そうか」 唯は俺の隣の椅子を引いてそこに座った。 ほんのりコーヒーの匂いがする。 仕事、一段落ついたのかな…。 「唯も仕事おつかれさま」 「…疲れたから少し休憩…………玲緒、きて」 唯はそう言いながらソファに座って手を広げてくれる。 その大好きで大きな手を拒むことなく、受け入れる。 「唯、いい匂いする………」 くんくんと唯の胸のあたりに頬ずりする。 ぎゅうっと唯に抱きしめられて、俺なんか嬉しくなっちゃった。 「玲緒も同じ匂いのはずなんだけどな」 「運命の人って匂いで分かるんだって」 「へぇ…」 俺、唯が運命の人だといいなって思ってるよ。 だってさ、こんなにいい人他にいないもん。 唯もそう思ってくれてたらいいな、とかちょっと女々しいかな。 「玲緒は…………甘い香り」 「え?」 「甘くてベタベタする匂いはあんまり好きじゃないけど、そういうのじゃない」 そう言うと目を瞑って何も言わなくなった。 甘えてくれてるの…かな? そうだったら嬉しいなぁ。 唯が甘えてくれることってなかなかないし、あんまり想像つかないもん。 早く大人になって、唯に寄り添いたい。 そんな想いは日に日に増していく。 唯が俺を支えてくれてる分、俺も唯を支えたい。 少し前に俺も頼って、と言ったはいいけどやっぱり俺は頼りないのか頼られることは少ない。 だから、少しでも役に立ちたいと思ってしまうのだ。 「ちょっとだけ触っていい?」 「…ちょっとだけ、なら」 ちょっとなわけない、よね? 唯? なんてふたりでお互いの心中を理解して笑い合った。

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