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第36話
何人を殴って、何人を蹴って、床に転がしたのだろうか。
5人だと思ってた相手は後から増えて人数は一気に膨れ上がっていた。
俺の容姿からして弱いだろう、とでも勘違いをしたのだろう。
「残念だったね、まだ、…やれるよ」
そう言ってニコリと微笑んでやる。
そしたら残ってるやつら、まだ意識のあるやつらはヒヤリとした表情を浮かべた。
こいつらバカみたい
自分たちからケンカ売ってきておいて、1人を相手に大勢で囲む。
挙げ句の果てにはその1人に殴られ、蹴られ、どんどん床に転がっていく。
すっごい笑える。
床に転がった奴らをみて俺ってばよくこいつら全員を相手したなぁ、なんて自己満足に浸る。
でも、まだまだ余裕。
なーんだ意外と簡単じゃん、なんて思ってた矢先
「いっ、て…」
突然指先に鋭い痛みを感じて目を向けると赤い液体が流れていた。
どうやら誰かがカッターを持っていたらしい。
それでも俺は無心で殴る。
痛くない、痛くない。
「っ!」
今度は頰に果物ナイフらしきものが掠った。
止まることを知らない流血は頰を滑り、ぽつりと床に落ちる。
あぁいらいらする。
普通ケンカにナイフなんか出してくるかよ
今日は何時頃に帰れるかなぁ
そんなことを考えながら果物ナイフを持っている男の服を掴み、殴り構える。
家に帰りたくないのに、帰れる時間を考えるなんて俺もばかみたいだな
「歯、食いしばりなよ」
そして腕を大きく振りかぶった。
が、その腕は降りてこなかった。
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