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第68話

「俺は今、すっごい幸せだよ」 本当に幸せ。 嘘は一切ないよ 唯と一緒にいることができて、唯と出会うことができて、心の底から嬉しくて楽しかった。 「お願い、俺と唯を引き離そうとしないで」 俺は震える声を堪えてなんとか2人に伝えた。 「でもその左手の怪我は…」 兄貴は俺の左手を見ながらそう言った。 違う、これは俺の自業自得なのに、 「これは唯のせいじゃない!」 「じゃあなんでか教えてくれる?」 「俺が、ケンカ…したから」 兄貴は少し悲しそうな顔をして俺を見ていた。 俺がケンカなんてすると思ってなかったんだろうなぁ、 「俺、もう行かなくちゃ…今日はもう無理…何も話せない」 こんな空気耐えられない。 早く唯のいる家に帰りたい。 「ちゃんと、話すから。それまで少し待ってて」 俺はかばんを手にとって立ち上がった。 だけど後ろから力強く手を掴まれる。 その手に驚きつつ、振り向くと玄関へと向かう俺の手を掴んだのは葉月だった。 「待って玲緒兄ちゃん!」 気持ち悪い。 こんな時だけ「玲緒兄ちゃん」なんて呼ぶなよ。 そんな想いを胸の奥に押し込めつつ、出来るだけ穏やかな声を意識した。 「お願い、離して」 その玲緒の言葉には葉月だけではなく、美鶴も驚いた。 葉月の力が怯んだのを感じて、玲緒は葉月の手を振り切って走った。

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