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第80話 唯side
駆け寄ってきた人物は俺よりも小さくて華奢な体だった。
「…玲緒」
「…何、してんの?」
いつもとは違う低めのトーンに少し驚いた。
そしてその問いをかけられているのは美鶴だ。
「俺、待ってって…言ったのに、なんでっ」
玲緒は少しだけ呼吸を荒くしていた。
「ねえ唯、何話してたの?教えて?」
ここで話して良いのか分からなかった。
ちらりと美鶴の方をみてみると、それを察したのか美鶴はゆっくりと口を開いた。
「玲緒が分かるように言うと、別れてくださいってお願いしてたんだよ」
美鶴から優しい声でその言葉が放たれた。
「なん、でっ、…やだ…っ!」
玲緒は俺にきつく抱きついてきた。
声は震えていて、瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。
「…玲緒」
「やだ!やだっていってる!」
美鶴が玲緒の名を呼んでも嫌だ、としか言わない玲緒に今日このまま玲緒がいる状態で話し合うのは無理だと2人はアイコンタクトで確認し、帰ることになった。
「玲緒帰るよ」
「帰らない…唯と一緒にいる」
さっきから駄々をこねる玲緒はまるで子供返りをしたようだった。
「ね、いいよね?」
「あ?…あぁ、いいよ」
美鶴は納得していない様子だったが、仕方ないという風に判断したようだった。
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