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第87話

「はい」 短く、けれどはっきりと答えたのは唯だった。 俺は返事をすることすら出来なかった。 それほどまでに自分の意思をしっかりと固めていたわけではなかったから。 唯は俺の頭を優しく撫でていつもより穏やかな顔で微笑んだ。 なんか、へん…? それに違和感を感じた俺は首を傾げて唯の方をみつめた。 「玲緒をお預かりしてすみませんでした」 でも唯は俺のことを見もせずに、兄貴に謝罪の言葉を述べた。 「大丈夫です。別れる時間くらい必要ですしね」 え、? なに?なにいってんの? 別れる時間って? 唯はそんな兄貴のおかしい言葉に怒りもせず、ただじっと座っているだけだった。 「っ、…ゆい?」 「あぁ、大丈夫だよ」 嘘だ。 何が大丈夫だ、だよ。 「玲緒、今までお世話してもらったお礼言って」 まだ混乱して頭がぐるぐるしている俺に兄貴がそんなことを言った。 「……っ」 なんとなくだけど、どういう話の流れになってるかは馬鹿な俺でも分かっていて でもきっと唯は俺のことを見捨てないでくれるってどこかで期待していた。 「…唯っ」 手に握っていた唯の服の端を更に強く、ぎゅうっと握った。 だけどいつまでも兄貴の言葉を否定する言葉は唯の口からは紡がれなかった。

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