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第88話
「悪い…」
唯はそう言って服の端を握る俺の手を優しく、だけど力強く、解くように促した
「…兄貴と唯の言ってることはなんとなく、っ、分かったよ…」
苦しい、苦しい。
だけど、
唯を困らせるのは、嫌だ。
「俺は、元通りに…普通に生活して、この家で暮らしてればいいんだね?」
大丈夫。
大丈夫だから、震えるな。
震える手足に頭の中で必死に震えるな、と命令を出す。
こんなかっこ悪い俺の姿を唯には知られたくないから。
3人の前でへらっとした笑顔を顔に貼り付けた。
みんなを安心させるために、
俺は大丈夫だから。
しばらく笑顔をつくっていなかったので、上手く笑えていたか分からないけど…これが俺の精一杯。
「唯、ありがとね」
明るい声を意識してなるべく唯の顔を見ないように、唯の着ているダークスーツのネクタイのところを見ながらお礼を言った。
目を見て話すのは無理だったから。
「あと、迷惑かけててごめん」
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