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第89話
あれから唯がどうやって帰ったのかはよく覚えていない。
だけどもう俺の側には唯の体温がないことは確かだった。
兄貴はしばらく家にいるようで、葉月も大人しかった。
…家事やらなくて良いなんて最高。
「おい玲緒…」
「…話しかけないでくれる?」
部屋で音楽を聴きながら休んでいると、今1番嫌いな奴の声が聞こえた。
そもそも葉月が兄貴に言わなきゃ良かったんだ。
全部こいつのせい…。
葉月は口の悪い俺の返事に驚いているようでドアの前で固まってた。
「寒いから閉めて、早く出てって」
「…っ」
葉月が部屋から遠のいていく足音を確認してから再び目を閉じた。
今だけは誰にも邪魔されたくない。
一人でいたい。
唯とのことを思い出して、整理する。
思い出してみると唯との思い出には楽しいこととか嬉しいことがいっぱいあって、当然のように頰に涙が伝わる。
「呆気なかったなぁ」
そんな乾いた声と疲れ果てて枯れた笑い声が部屋に響いた。
明日からは切り替えて生きていかなければならない。
明日から、
そう、明日から
きっと上手く演じられるはず。
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