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第92話
結城とは唯とお別れした2週間後に会った。
結城は翻訳関係の仕事をしていて、ほぼ家でのデスクワークが主な仕事らしい。
家で兄貴たちの望むような『玲緒』を演じる代わりに、外では散々だった。
とにかく喧嘩に明け暮れる毎日。
体が痛みを感じない時は無いと言っても過言ではなかった。
やっぱり俺はダメな人間だな、となんだか笑えてさえ来た。
そんな玲緒と彼が初めて会ったのは喧嘩した後に寄ったファミレスだった。
「…の、…あの!大丈夫ですか?」
「わ…誰、ですか…?」
今日は一段と激しい喧嘩で、制服が少し汚れていた。
そのまま帰るのは少し気が引けたので、ファミレスのトイレで洗い流そうと思って入った。
何も頼まないのはおかしいので、とりあえずドリンクバーを頼んでコーラを飲もうと思ってた、はず…。
だけど、目を開けると知らない男の人が俺の顔を覗き込んでいた。
どうやらドリンクバーの前でコップを持ったまましゃがみこんで寝てしまっていたらしい。
丁度レジやカウンターから見えない場所だったので店員は誰も気づかなかったようだ。
それにしてもなかなかすごいことしたよね俺、コップ持ったまま寝るとか。
「大丈夫です!お邪魔してすみま、…」
そう言って立ち上がろうとした時に視界がぐらっと揺らいで男の人に支えられていた。
「おっと、…大丈夫、じゃないですね…家はどちらですか?送りますよ」
「ん、と…家は…ぅっ、ひぐっ、…ない、ですね」
その手を払い、ふらふらとしたまま立ち上がって、案の定バランスを崩した玲緒。それを受け止めたのはまたもや男の人だった。
家、それを聞いて思うのはやっぱり唯だった。
唯のいる家に帰りたい。
だけどそれはできないこと。
しては、いけないこと。
「あぁっ泣かないでください!ほら、」
そういって男の人は俺の涙をハンカチで拭ってくれた。
その男の人は今、一緒にいる結城で俺は彼にどんどん甘えていった。
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