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第155話

「ゆい、帰りたい……すぐ」 「わかったよ」 綺麗な人の顔をあんまり見たくなくて俺は唯のスーツにずっと顔を埋めていた。 スーツに顔を埋めていると、唯の香りとタバコの匂いがしてきた。 唯の香りは好きだけど、このタバコの匂いはちょっとだけ苦手だ…。 「じゃあ帰るから、八坂あとは頼んだ」 「あーいよっ!じゃね、玲緒くん」 そう言って笑顔で手を振ってくれる八坂さんには自然と頬が緩んで俺も手を振った。 それから唯は車まで俺のことを運んでくれて、帰りたい理由に嘘をついたことがちょっとだけ申し訳なくなった。 車の外の景色がどんどん変わっていく。 外はもうほとんど真っ暗で街を照らす電気の光だけが明るかった。 「疲れてんの?」 俺が全く喋らないことを不思議に思ったのか唯はそんなことを聞いてきた。 「別に…疲れてないもん」 「じゃあまだ眠い?」 「もう眠くない…」 それから会話が無くなって唯が、はぁとため息をついた。 俺にはそれがやけに大きく聞こえて胸が痛くなった。 なんか、無理……泣きそう。 ため息ついたってことはなんか俺が嫌なこと言ったから…だよね? それからお互い喋らなくてマンションに着くまで沈黙が続いた。 もう何やってんだろ俺…もっと愛想良くしておけば良かった… 唯の家までのエレベーターの中でそんなことを考えていた。 ため息ついてたし……うぅ、 それを考えたら一気に悲しくなった。 ため息…唯がため息…。 ガチャリという音がして唯が玄関のドアを開けていたので、慌てて俺も一緒に入った。

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