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壱也の父親は中間管理職として商事会社に勤めている。
上からの無理難題をこなし、下を指導する多忙なポジションであり、週末だろうと出勤している。
壱也は毎日といっていいほど夜遊びし、帰宅時間が遅く、父親と顔を合わせることは滅多になかった。
たまに顔を合わせても大した会話などなかった。
自分の父親が男と付き合っていた。
男が男と付き合っていた。
不快でしかない。
「十四歳だっけ。まだ中学生。羨ましいな」
吉崎が立ち上がる。
壱也は身構えたが、彼はベッドを通り過ぎると窓際へ歩み寄った。
カーテンを開いて外を覗く。
「もう止んだかな。暗くて見えない」
独り言のように吉崎は喋っている。
窓に額を押しつけ、その冷たさを楽しんでいるようだった。
「雪、好きなんだ。みんな面倒くさがるけど。僕はいつもと違った日が過ごせるみたいで嫌いじゃない」
壱也は言い知れぬ不安を抱いた。
犯罪に及んでいる真っ最中だというのに、その日常ぶりはないだろう。
不気味だった。
カーテンを閉めた吉崎は、今度は、ベッドの前にやってきた。
寝転がされている壱也をじっと見下ろす。
「……なんだよ」
「お腹、減ってない?」
乱暴に扱われるほうがまだいい。
穏やかな態度でいられると不気味さに拍車がかかって鳥肌が立つ。
帰宅前に友達とファストフードを食べてきていた壱也に空腹感はなかった。
ただ、別の欲求が。
「……トイレ」
小声で告げると、吉崎がナイフを手にしたので、壱也はぎょっとした。
「縄を切るんだよ」
壱也はそばに近づけられたナイフに肝を冷やしながらも、逃げられるのでは、と淡い期待を抱く。
何本もの縄を断つ、鈍い音が響いた。
「動かないで」
次の瞬間には喉元にナイフの感触。
「手はそのまま」
冷たい金属が手首に触れる。
ガシャン
「はい、いいよ」
吉崎が笑顔で言う。
壱也は後ろ手にかけられた手錠を肩越しにかろうじて見下ろした。
「少し窮屈かもしれないけど。我慢してね」
吉崎に腕をとられてベッドからよろよろと立ち上がる。
……そう簡単にうまくいくわけないか。
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