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「言っておきますけれど部屋も変えました。探すのは賢明ではないですよ」
虚脱していた壱也の耳に周囲の音が戻ってきた。
吉崎の抑揚のない声が頭の中を旋回する。
「いつ解放するかはわかりません。危害は加えませんから……、……これは貴方としていた行為でしょう、危害の部類には入りませんよ。じゃあ、またかけますから。さようなら」
目を開くと吉崎の背中がすぐそこにあった。
振り返った彼の眼差しはいつもと同じだった。
「血、出ちゃったね。痛む?」
吉崎が壱也の頬を撫でる。
壱也は顔を背ける力も湧かずに、されるがままだ。
「薬、塗るから」
壱也は震えた。
募る嫌悪感と羞恥心。
感じたくなくても感じてしまう、馬鹿げた下半身。
吉崎は無言で彼自身が傷つけた壱也の体を介抱している。
無性に煩わしいひと時だった。
「恨んでもいいよ」
スラックスを履かせると吉崎は言った。
腰の鈍痛に眉根を寄せていた壱也は彼を見上げる。
「殺してやりたい。そう思ってくれても構わない」
どこまでも余裕をかます吉崎に不貞腐れ、面白くない壱也はシーツを噛んだ。
「シーツ、君の歯形でいっぱいだ」
「手錠かけられて一日中ここに寝かされて、おかしくなりそうなんだよ」
「そんなに長く監禁するつもりはないよ」
「じゃあ、いつまで」
「僕の気が済むまで」
白い顔がほんの一瞬だけ悲しみの色を浮かべた。
壱也が瞬きした後、それは跡形もなく消え失せていた。
二十四時間後、壱也は父親に通じる携帯の傍らでまたも吉崎に犯された。
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