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夜になった。 遠くでオートバイの爆音が流れている。 壱也は横になったまま吉崎が差し出すものを食べていた。 「……これ、飽きた」 「何がいいの?」 「ん……とにかくこのパン以外のパン……」 「パンでいいんだ」 もう習慣のようにすら思えてきた吉崎との食事が済むとうつ伏せになった。 痛い。 だけど慣れた。 デスク前のイスに腰掛ける吉崎の背中を眺める。 この視界にも慣れた。 スーツを羽織ったまま背中を少し丸めている。 読んでいる分厚い本は難しそうな内容だった。 サバイバルナイフは相変わらず白い光を放って、その存在を誇張している。 壱也に突きつけられる回数は減っていた。 吉崎が立ち上がる。 うつらうつらしていた壱也は気にも止めなかったが、ベッドにやってきたので仕方なく目を開くと、大袈裟なくらい恭しく起こされた。 「そろそろ体を洗おう。明日、シーツも洗うよ。歯形だらけだから」 微笑した吉崎は壱也をベッドから立たせた。 壱也はよろけつつ彼に寄りかかって歩いた。 確かに汗をかいていた。 二回目のセックスは真冬ということも忘れてしまうくらい熱かった。 浴室はトイレの向かい側にあった。 明かりを点け、吉崎は壱也の服を脱がしにかかる。 とりあえず捲られたセーターの襟口から頭を抜かせると、前屈みになった吉崎は、壱也のシャツのボタンを外していった。 「……どーすんだよ」 手錠が邪魔になって上半身の着衣が引っ掛かってしまっている。 吉崎の手元がきらりと光った。 「この服、高かったかな」 「別に」 「じゃあ動かないで」 びりびりと服の裂ける音。 袖口からナイフを差し込み、切断しているようだ。 僅かに皮膚を切られて痛みが走ったものの、壱也は、一言も発さなかった。 引き裂かれた残骸が足元に落ちた。 「……ごめん」 傷に気づいた吉崎が謝ってきた。 見てみると、ほんの小さな切り傷だ。 壱也は何も言わず代わりに派手なくしゃみをした。

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