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「ああ、早くしないとね」 下の着衣を素早く脱がせた吉崎は浴室の扉を開くと壱也を中へ促した。 彼は上着を脱いで、ワイシャツの袖を捲り、靴下を脱いでいた。 浴槽には湯が溜められていて湯気が立ち込めている。 勧められるまま吉崎の助けを借りて湯船に身を沈めた。 温かい。 体の節々の凝りが解されていくようだ。 拘束された両手首の筋肉は緊張したままだが。 「頭、向けてくれる?」 浴槽の縁に顎を乗せて吉崎に頭を向ける。 決して乱暴でない、優しい手つきで彼は壱也の頭を洗い始めた。 零れ落ちた泡が湯船に落ちて漂う。 壱也はじっとしていた。 「人の髪を洗うなんて初めてだよ」 地肌を洗って濯ぐと「体はどうしようか?」と尋ねてくる。 「ん……」 「君が嫌ならしないけど」 それだとまるで、頼んだら、自分がすごくそれを望んでいるみたいな。 「もういーよ」 脱衣所に上がると吉崎はバスタオルを手に取った。 首筋から肩を伝い、腕へ、そして薄っぺらな胸を回って背中を辿る。 小柄で骨張った全身を吉崎は丁寧にタオル越しに撫でていく。 「頭は後できちんと拭くから。あと、上、裸で我慢してくれる。部屋にいれば寒くないだろうし」 嫌だとも言えずに壱也は黙っていた。 制服のスラックスを履かせてもらい、吉崎に連れられて寝室に戻る。 ここは常時暖房を点けっぱなしにしている。 上半身裸であるにも関わらず、風呂に浸かった直後の壱也は室内の蒸し暑さに気分が悪くなった。 「あのさぁ」と、いつもの場所であるデスク前に着こうとした吉崎を呼び止める。 「窓、開けてくんない?」 「熱いの? 湯冷めするよ?」 それ以上、壱也は吉崎に頼もうとはしなかった。 方向転換した吉崎は窓辺に歩み寄る。 閉め切っていたカーテンを開くと「寒くなったら言って」と、告げて窓も開いた。 「壱也君、こっちに来れる?」

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