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壱也は驚いて彼の背中を見やった。 もたつきながらもベッドから腰を上げ、その背後へ近づく。 「知らなかったよね」 壱也がこの部屋の窓から初めて見る景色だった。 白い。 吐く息も白く色づけされる。 それは降り積もった雪。 閑散とした街並みすべてを白く覆っている。 壱也はここがどこであるのかを探るのも忘れ、その小規模な銀世界に見とれた。 「今日はあまり降っていないけど。昨日がひどくてね。こんなに積もるの、久し振りだよね」 窓枠に頬杖を突いた吉崎は無邪気に笑っていた。 「今も降ってるんだよ」 「え、うそ」 「本当だよ、よく見てみなよ」 暗くてよくわからない。 目線をせわしなく巡回させる壱也に吉崎はある場所を指差して言う。 「電灯の下を見たらわかるよ。明かりが雪を照らすからね」 確かに淡い光の差す中にちらちらと降るものがある。 壱也には舞い散る埃にしか見えない。 つまらない。 積もった雪を眺めているほうがよかった。 「綺麗だね」 「俺、友達と食べたことある。味なんてわかんなかったけど」 「今も食べたい?」 「……別に。あ、でも、触りたい。雪ってさ、なんかテンション上げるっていうか」 吉崎が不意に外へと身を乗り出した。 何をしているのだろうと見つめる壱也の隣で、しばしその状態のままでいた彼は、ふと身を引いて壱也に掌を広げてみせた。 「あ」 そこには雪の欠片が少し。 「食べる?」 吉崎はその掌の雪を自分達の頭上高くに放り投げた。 一瞬、はらはらと、二人の元に舞い落ちる。 壱也が笑う。 吉崎も笑った。 雪はあっという間に溶けて二人を濡らしたが不思議と嫌ではなかった。

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